2023 年 52 巻 2 号 p. 123-127
症例は65歳女性.以前より胸部大動脈瘤を指摘されていた.自宅で倒れているところを家人に発見され救急搬送された.搬送時の意識レベルはJCS200で左共同偏視と右半身完全麻痺を認めた.頭部CT検査にて左大脳半球に皮髄境界不明瞭の領域を認めた.造影CT検査にて大動脈基部から腹部大動脈末梢に至る広範な偽腔開存型の大動脈解離,右内頸動脈閉塞,左内頸動脈狭窄および高度漏斗胸を認めた.搬送後経時的な神経学的症状の改善を認め,搬送3時間後の頭部CT検査で新たな梗塞および出血所見を認めなかったため,緊急手術を行う方針とした.高度漏斗胸に伴い心臓および大血管は左胸腔内に位置しており,胸骨正中切開および左第5肋間開胸によるL字切開でアプローチした.右大腿および右腋窩動脈送血,右房脱血で人工心肺を確立し,中等度低体温循環停止,選択的脳灌流併用下に手術を施行した.腕頭動脈-左総頸動脈間の小弯側にentryを認めたため,左総頸動脈-左鎖骨下動脈間で大動脈を離断し,4分枝付き人工血管を用いて部分弓部置換術を行った.術後右不全麻痺が残存し,術後45日目にリハビリ病院へ転院となった.高度漏斗胸合併患者に対する開心術を行う際のアプローチ選択について一定のコンセンサスは存在しない.本症例のように救命を第一とした高度漏斗胸患者に対しL字切開アプローチを選択することは,良好な視野のもとに安全な手術を行う上で妥当な選択であると考える.