日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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52 巻, 2 号
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巻頭言
症例報告
[先天性疾患]
  • 緒方 裕樹, 重久 善哉, 山下 雄史, 松葉 智之, 豊川 建二, 上田 英昭, 川井田 啓介, 蔵元 慎也, 曽我 欣治, 井本 浩
    2023 年 52 巻 2 号 p. 77-82
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    新生児Marfan症候群は新生児期・乳児期早期より重篤な心肺機能不全を呈するMarfan症候群の最重症型である.本症例は生後3カ月頃より心不全症状を認め,6カ月時に当科へ紹介された.家族歴にはMarfan症候群および心血管疾患はなかった.初診時,眼球陥凹,漏斗胸,クモ状指,拇指徴候の所見があった.心エコー検査で左室の拡大,高度僧帽弁閉鎖不全および中等度の三尖弁閉鎖不全を認めた.僧帽弁および三尖弁形成術を施行しMR trivial,TR mildまで改善したが,その後急激なMRの増悪を認め術後18日目に心停止を来たしたため,ECMOを導入したうえで緊急手術を行った.僧帽弁を観察したところ前回の手術操作部位に問題なく,弁輪拡大と弁組織の伸展拡大が逆流増悪の原因と思われた.僧帽弁置換術を行いECMO管理を続けた.しかしその後TRの急激な増悪を認め,僧帽弁置換術の9日後に三尖弁置換術を施行した.ECMO導入から37日目にこれを離脱,人工呼吸からは71日目に離脱した.その後の経過は現在までのところ良好である.新生児Marfan症候群の弁形成では成人Marfan症候群,あるいは通常の小児弁膜症とは異なる問題があり,術後の逆流増悪を来さないための検討が今後さらに必要である.

[成人心臓]
  • 松本 淳, 安田 章沢, 長 知樹, 松木 佑介, 小林 由幸, 森 佳織, 内田 敬二
    2023 年 52 巻 2 号 p. 83-87
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例はアトピー性皮膚炎を有する55歳女性.発熱と意識障害で前医搬送となり,敗血症性ショックの診断で入院.血液培養検査で黄色ブドウ球菌が検出され,多発脳梗塞および左腎梗塞あり,経食道心エコー検査で僧帽弁位に可動性を有する10 mm大の疣腫を認め,感染性心内膜炎の診断で当科転送となった.緊急僧帽弁形成術を施行,疣腫は切除することができ,血行動態安定した状態で人工呼吸管理下に術後ICUへ入室した.術後3日目より貧血の進行を認め,術後4日目にショック状態となったため,造影CT検査を施行したところ,術前に梗塞を認めていた左腎より動脈性出血が認められた.緊急カテーテルによる止血術を施行し,以後は循環動態の改善が得られた.感染性心内膜炎の手術後に腎出血を合併した症例の報告は過去になく,多様な合併症を来しうる本疾患の診療に携わるにあたり貴重な1例であった.

  • 竹原 眞人, 友塚 真栄, 津丸 真一, 島本 健
    2023 年 52 巻 2 号 p. 88-92
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は87歳,女性.73歳時に大動脈弁狭窄症に対して大動脈弁置換術AVR(CEP 21 mm)を施行された.14年後に縦隔膿瘍に対して抗生剤を投与し,膿瘍の縮小傾向と炎症改善を認めた.その際に疣贅や大動脈弁逆流は認めなかった.その8カ月後に,呼吸苦を主訴に救急搬送された.精査の末,大動脈弁位で重度の弁逆流を認めた.疣贅は認めなかった.造影CTでは左バルサルバ洞動脈瘤を認めた.バルサルバ洞動脈瘤を伴う治癒後の大動脈弁位人工弁心内膜炎と診断した.手術ではCEP弁を除去,CEP弁は右冠尖に相当する弁尖が破壊されていた.左バルサルバ洞の拡張を認めた.Percevalを留置した.術後順調に経過していたが,房室解離を認め,ペースメーカーを留置した.経胸壁心臓超音波検査を施行し,大動脈弁位の人工弁機能に問題がないことを確認し,造影CTでは左バルサルバ洞動脈瘤の縮小を認めた.術後30日目に退院した.人工弁心内膜炎という高リスク症例に対してPercevalによる大動脈弁置換術が有効である.

  • 大高 慎吾, 谷 一宏, 中垣 彰太, 外川 正海, 村田 明, 上田 哲之
    2023 年 52 巻 2 号 p. 93-97
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は70歳女性.労作性狭心症に対して左内胸動脈と大伏在静脈を使用した心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)が予定された.冠動脈末梢側吻合に先立ち,中枢側吻合デバイスであるEnclose II(Novare Surgical System, Inc, USA)を使用して,大伏在静脈の中枢側吻合を上行大動脈前壁に施行した.同デバイスを抜去した際,上行大動脈外膜下血腫が出現し,経食道心エコーで上行大動脈にflapを認め,医原性大動脈解離と診断した.ただちに大動脈人工血管置換術を追加施行する方針となった.上行大動脈内を観察すると,Enclose II挿入部位に内膜の亀裂を認め,解離発症の原因部位を同定した.上行大動脈人工血管置換術施行後に,冠動脈バイパスを行い手術を終了した.術後経過は良好に推移し,術後12日目の造影CTでは腹部大動脈レベルまでの大動脈解離を認めたが,偽腔は完全に血栓化していた.OPCAB術中の中枢側吻合デバイスに起因した大動脈解離は非常に稀であるが重篤な合併症であり,術中早期診断と迅速な外科的治療の追加が救命のために必要であると考えられた.

  • 田口 真吾, 成瀬 瞳, 田中 圭
    2023 年 52 巻 2 号 p. 98-102
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は71歳,女性.完全房室ブロックに対して38年前に他院循環器内科でペースメーカー(VVI)植え込み術を施行され,時期は不明であるが経過中に心房細動に移行した.1年前にうっ血性心不全が悪化したため入院加療を行い,退院後は近医に紹介となった.しかし,息切れや下腿浮腫は持続し経口利尿薬を増量して対応していたが,治療に難渋するようになったために当科に紹介となった.心エコー検査で重度三尖弁閉鎖不全症(TR)および中等度僧帽弁閉鎖不全症を指摘され,腎機能低下およびChild分類Aの肝硬変も合併しているため入院加療となった.心臓悪液質を疑う腹水貯留を伴う低栄養状態もあり,強心薬の点滴および中心静脈栄養による術前管理を行った後,入院継続のままで三尖弁形成術および僧帽弁形成術を施行した.術後管理に難渋したが,自宅退院となった.TRによる右心不全は内科治療に反応するが,右心不全が重症化し腎機能低下やうっ血肝による肝障害が出現してから手術介入となった症例では手術術式に比較して術後管理に難渋し文献上から成績もけっして良好とは言えない.慢性心房細動に合併した重度TRのように手術適応となる左心系弁膜症を伴わない症例では右心不全が重篤となる前に外科医が関与し,症例によってはガイドラインよりも踏み込んだ早期の手術を検討すべきであると考える.

[大血管]
  • 田村 智紀, 大友 有理惠, 宝来 哲也
    2023 年 52 巻 2 号 p. 103-108
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    急性大動脈解離の分枝灌流異常の1つに脊髄虚血があるがその治療法は確立されていない.今回われわれは脊髄虚血を合併したStanford A型急性大動脈解離に対して集学的治療が奏功した3例を経験したので報告する.症例1: 55歳男性,不全対麻痺で発症したStanford A型急性大動脈解離,偽腔閉塞型.心タンポナーデを合併しており緊急的に上行大動脈置換術を施行した.術後3時間で覚醒を確認,不全対麻痺は改善なく集学的治療(脳脊髄液ドレナージ,ナロキソン投与,ステロイパルス療法)を施行し不全対麻痺は完全に改善し第32病日に独歩で退院した.症例2: 50歳女性,左下肢完全麻痺で発症したStanford A型急性大動脈解離,偽腔開存型.緊急的に上行大動脈置換術を施行した.術後2時間で覚醒を確認,左下肢完全麻痺は改善なく集学的治療(脳脊髄液ドレナージ,ナロキソン投与,ステロイパルス療法)を施行し左下肢麻痺は部分的に改善し第57病日装具歩行で退院した.症例3: 43歳男性,左下肢不全麻痺で発症したStanford A型急性大動脈解離,偽腔閉塞型.循環動態は安定しており保存的治療で開始した.同時に集学的治療(脳脊髄液ドレナージ,ナロキソン投与,ステロイパルス療法)を施行し左下肢不全麻痺は完全に改善して第46病日独歩で退院した.脊髄虚血症状を合併したStanford A型急性大動脈解離に対しては救命に加えて脊髄梗塞症状の改善のために,緊急的手術を含めた集学的治療の治療戦略が重要となる.

  • 瀧本 真也, 谷口 尚範, 岩倉 篤, 上原 京勲, 森島 学, 藤原 靖恵, 小曳 純平, 杉田 洋介, 白神 拓
    2023 年 52 巻 2 号 p. 109-113
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)後のtype II endoleak(T2EL)の頻度は少なく,供血路として肋間動脈や気管支動脈が知られているが,腹部ステントグラフト内挿術後と異なり血管内治療のみでの治療が難しい.今回弓部大動脈瘤へのTEVAR術後にT2ELによる瘤径拡大を来した症例に対し,右肋頸動脈経由で塞栓術を行い瘤径の縮小に成功した2例を経験した.弓部大動脈瘤へのTEVAR術後中期遠隔期のT2EL発生には肋頸動脈からの側副血行が供血路に血流供給している可能性が示唆された.塞栓術中の経動脈的CT Angiography(CTA)は動脈塞栓による脊髄梗塞発症リスクを評価できる可能性がある.

  • 小此木 修一, 大木 聡, 安原 清光, 長澤 綾子, 三木 隆生, 山口 亮, 加藤 悠介, 大林 民幸
    2023 年 52 巻 2 号 p. 114-117
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は77歳女性.腹部大動脈瘤の診断で腹部大動脈ステントグラフト内挿術(以下EVAR)を施行.術後7カ月でtype 2エンドリークによる瘤径拡大のため腰動脈コイル塞栓を追加.以後大きな問題なく経過していた.術後5年5カ月で発熱主訴に前医受診,血液検査でCRP 10.11 mg/dlと高値であり,CT検査で腹部大動脈瘤の拡大と大動脈瘤壁外に膿瘍を疑う腫瘤を認めた.抗菌薬治療が開始されたが,CT再検で腫瘤が増大傾向にあり,またPET-CTで同部位に集積を認めたことから外科的治療介入が必要と判断され,当科紹介となった.感染性腹部大動脈瘤と診断し,手術を施行した.腹部正中切開で開腹,ステントグラフトを抜去,大動脈瘤壁を可及的に摘除した後,リファンピシン浸漬人工血管を使用し,人工血管置換を実施した.術中に採取した瘤内容物,瘤壁,腫瘤内容物の培養結果はいずれも陰性であった.瘤壁の病理検査結果はXanthogranulomatous inflammationの診断であった.術後速やかに炎症反応が改善,術後15日目に軽快退院となった.EVAR後の大動脈瘤壁に黄色肉芽腫性炎症を来した症例を経験したので報告する.

  • 縄田 良祐, 鈴木 亮, 横山 俊貴, 坪根 咲里依, 松野 祐太朗, 蔵澄 宏之, 白澤 文吾, 美甘 章仁, 濱野 公一
    2023 年 52 巻 2 号 p. 118-122
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    ドレナージ困難な急性膿胸において全身状態不良時には全身麻酔下での胸腔鏡下掻爬術は選択しづらいことがある.今回胸部大動脈瘤肺内穿破に対するin-situ reconstructionと肺葉切除後の急性膿胸に対して,Urokinaseおよび抗生剤の胸腔内注入療法が有効であった症例を経験した.症例は62歳,男性.喀血および嗄声の精査で,胸部大動脈瘤肺内穿破と診断され,当科で左開胸下にtotal arch replacementおよび左上葉切除術を施行した.術後9日目にEnterococcus faecalisを起炎菌とする左膿胸を合併した.全身状態を考慮し,Urokinaseの胸腔内投与ならびに最小殺菌濃度(MBC; minimum bactericidal concentration)を参考にAmpicillinの胸腔内投与を行った.胸水培養は陰性となり,膿胸は軽快し退院した.本治療法は全身麻酔下での手術が困難な場合,急性膿胸治療の選択肢となりうると考えられた.

  • 藤本 智子, 土居 雄太, 橋野 朗, 梅末 正芳
    2023 年 52 巻 2 号 p. 123-127
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は65歳女性.以前より胸部大動脈瘤を指摘されていた.自宅で倒れているところを家人に発見され救急搬送された.搬送時の意識レベルはJCS200で左共同偏視と右半身完全麻痺を認めた.頭部CT検査にて左大脳半球に皮髄境界不明瞭の領域を認めた.造影CT検査にて大動脈基部から腹部大動脈末梢に至る広範な偽腔開存型の大動脈解離,右内頸動脈閉塞,左内頸動脈狭窄および高度漏斗胸を認めた.搬送後経時的な神経学的症状の改善を認め,搬送3時間後の頭部CT検査で新たな梗塞および出血所見を認めなかったため,緊急手術を行う方針とした.高度漏斗胸に伴い心臓および大血管は左胸腔内に位置しており,胸骨正中切開および左第5肋間開胸によるL字切開でアプローチした.右大腿および右腋窩動脈送血,右房脱血で人工心肺を確立し,中等度低体温循環停止,選択的脳灌流併用下に手術を施行した.腕頭動脈-左総頸動脈間の小弯側にentryを認めたため,左総頸動脈-左鎖骨下動脈間で大動脈を離断し,4分枝付き人工血管を用いて部分弓部置換術を行った.術後右不全麻痺が残存し,術後45日目にリハビリ病院へ転院となった.高度漏斗胸合併患者に対する開心術を行う際のアプローチ選択について一定のコンセンサスは存在しない.本症例のように救命を第一とした高度漏斗胸患者に対しL字切開アプローチを選択することは,良好な視野のもとに安全な手術を行う上で妥当な選択であると考える.

  • 保坂 到, 伊庭 裕, 對馬 慎吾, 柴田 豪, 仲澤 順二, 中島 智博, 川原田 修義
    2023 年 52 巻 2 号 p. 128-132
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は生来著患のない59歳男性.検診で高血圧症を指摘され近医を受診した.精査のCT検査でCrawford II型相当の胸腹部大動脈瘤が指摘され,精査加療目的に当科紹介となった.手術侵襲を低減させる目的で,一期目に全弓部置換術,二期目に胸部ステントグラフト内挿術,三期目にIII型相当の胸腹部置換術を行う計画的分割手術を施行した.三期目の胸腹部置換術後に対麻痺を認め種々の支持療法にても改善を得られず,下肢麻痺および膀胱直腸障害が残存した.リハビリ施行ののち術後67日目に回復期病院に転院となった.転院後褥瘡形成や反復する尿路感染を認め抗生剤加療が開始されていたが改善に乏しく,またCT上両側大腿骨周囲に血腫形成と異所性骨化を認め,集学的治療が必要と判断され転院後約4カ月で当院へ再入院となった.臨床経過および画像所見から術後対麻痺に合併したNeurogenic heterotopic ossificationと診断した.褥瘡および尿路感染に対する抗生剤加療を継続すると同時に,強度に留意しながらリハビリを継続することで異所性骨化の増悪を認めず経過した.入院後44日目に皮弁を施行し,79日目に再転院となった.Neurogenic heterotopic ossification自体の病態生理は不明な点が多く治療法も定まったものはないが,術後対麻痺を合併した症例においてはNeurogenic heterotopic ossificationが生じるリスクにより術後のリハビリ自体が制限され,手術侵襲からの回復やADL維持を困難にさせる可能性が考えられた.リスク因子に対する適切な予防マネージメントを講じ,早期発見に務めることが重要と考えられた.

[末梢血管]
  • 眞岸 克明, 大平 成真, 清水 紀之, 和泉 裕一
    2023 年 52 巻 2 号 p. 133-136
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は73歳男性,60歳時に骨盤大腿型閉塞性動脈硬化症で右総腸骨-右大腿-左大腿動脈バイパス,左大腿-膝上膝窩動脈バイパス,69歳時に急拡大した腹部大動脈瘤に腹部ステントグラフト内挿術,その後に左大腿動脈吻合部仮性瘤切除術などの既往歴があった.人工血管周囲に体液貯留が持続し,72歳時にドレナージと右大腿動脈吻合部に縫工筋充填術を行った.73歳時に,左膝窩動脈バイパス閉塞にともない右腸骨動脈位人工血管から左閉鎖孔経路を通し左膝上膝窩動脈へcross overバイパス術を行った.1カ月後のCTで,人工血管の膀胱貫通が判明した.開腹手術で膀胱を切開して人工血管を膀胱外へ出した.術後経過は良好であったが,人工血管が尿に曝露されていたので3カ月間は経口抗生剤を続けた.現在,感染徴候もなく外来で経過観察中である.骨盤腔で交叉する閉鎖孔経路を選択する機会はきわめて稀だが,直視下で膀胱壁を識別し,十分な注意のもと人工血管を通す必要がある.

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