2024 年 53 巻 3 号 p. 127-130
症例は60歳代女性.持続性心房細動に対して直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)による抗凝固療法中であった.突然の胸痛を自覚し,当院へ救急搬送となった.精査にて急性大動脈解離Stanford Aの診断で当科紹介となり,緊急手術の方針とした.DOAC内服中であり致死的出血ハイリスクと判断されアンデキサネット アルファを救急外来にて投与された.手術は胸骨正中切開でアプローチし,体外循環の準備を行いつつ,未分画ヘパリンを20,000 U経静脈投与した.しかしながら活性化凝固時間(ACT)は181秒(ヘパリン投与前ACT:124秒)と延長乏しく,ヘパリンの追加投与が必要であり,最終的にACT\>400秒までに計80,000 Uを要した.ヘパリン抵抗性を疑い人工心肺回路内へのナファモスタットの投与を行いつつACT>400秒を維持することで体外循環を行った.その後,上行大動脈人工血管置換術を施行した.人工心肺からの離脱は容易で,止血も良好であり手術を終了した.術後経過は良好であり,第11病日に自宅退院となった.入院の経過において,出血・血栓塞栓症は認めなかった.術前抗凝固薬内服は術中,術後の出血リスクを高め,致死的となりうる重要な問題点である.第Xa因子阻害剤中和剤:アンデキサネット アルファ(オンデキサ®)が使用可能となり,DOAC内服患者の危機的出血に対する貢献が期待されているが,その有効性や使用方法に関しては知見の集積が待たれるところである.今回われわれは,DOAC中和剤によるヘパリン抵抗性に対してナファモスタットを用いることで体外循環を確立させ手術を行った急性大動脈解離Stanford Aの1例を経験したので,文献的考察を踏まえて報告する.