日本心臓血管外科学会雑誌
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症例報告 [末梢血管]
正中弓状靭帯症候群による腹腔動脈閉塞に多発性膵十二指腸動脈瘤と脾動脈瘤を合併した1例
大島 祐曽我部 長徳
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2024 年 53 巻 4 号 p. 236-241

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抄録

多発性膵十二指腸動脈瘤の報告は散見されるが,3個以上の多発性膵十二指腸動脈瘤の報告数は少ない.今回,われわれは正中弓状靭帯症候群と腹腔動脈閉塞を伴い,5個の多発性膵十二指腸動脈瘤と1個の脾動脈瘤を合併した症例を経験した.膵背側部の4個の動脈瘤はコイル塞栓により治療したが,その前に,側副血行路の塞栓による臓器虚血を防止するため,大伏在静脈を用いて上腸間膜動脈ー胃十二指腸動脈バイパスを行った.動脈遮断の前後とバイパス後における胃十二指腸動脈圧と体血圧の測定値,およびその比は臓器血流の評価の指標として有用であり,術後に合併症は生じなかった.多発性後上膵十二指腸動脈瘤の1個は切除し,病理検査で線維筋性異形成の所見であった.ただ,動脈瘤は3 mmの大きさだったが,瘤壁は菲薄化を認め,動脈瘤のサイズにかかわらず破裂のリスクがあることを示唆していた.CTは塞栓部における複数のアーチファクトのため,術後の遠隔期に上腸間膜動脈造影を施行し,バイパスの開存と膵十二指腸動脈瘤の再発のないことを確認した.また,脾動脈瘤にも新たな変化はみられず,本症例に対する治療法は有効であると考えられた.膵十二指腸動脈瘤の1個は,胸部CTの再評価で,指摘される以前の27カ月の期間は瘤壁の石灰化が進行し,動脈瘤の増大は認めなかった.膵十二指腸動脈瘤と脾動脈瘤の併発は8症例と少なく,過去にそれを検討した報告はなかった.全例が女性で,8症例のうち6症例は膵十二指腸動脈瘤の多発症例であり,さらに4症例においては稀な3個以上の多発性膵十二指腸動脈瘤症例だった.また,手術後には膵液漏などの局所合併症が多発していた.この疾患の特徴を明らかにするためには,今後の症例の集積が必要であると考えられる.

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