日本心臓血管外科学会雑誌
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原著
AORFIX AAAステントグラフトのフィッシュマウスの挙動とその制御方法
東 隆池原 大烈廣田 理峰道本 智新浪 博士
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2025 年 54 巻 3 号 p. 95-100

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抄録

[目的]腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療においてShort angulated neck(SAN)は解剖学的な適応限界であると言える.AORFIX AAAステントグラフトのリングステント構造はこのようなSAN症例に対し優位性があるものの,独特な形状の中枢端を腎動脈に合わせて正確に留置することは困難である.そのため,われわれは同グラフトの正確な留置を目的とした新たな留置方法(AORFIXテクニック)を考案した.この方法は実際のSAN症例においても中枢側からのエンドリーク制御に有用であることが分かっている.本稿では,ブタ血管モデルを用いた実証実験によりフィッシュマウス形状のステントグラフト中枢端の挙動を観察することで,そのメカニズムを明らかにするとともに,本テクニックの有用性を検証する.[方法]ブタの胸部大動脈を用いて,腎動脈が分岐した腹部大動脈モデルを計4体作製した.通常の方法にて留置しバルーンによる中枢タッチアップを施行した2体をコントロール,AORFIXテクニックを施行して留置した2体を介入群とした.電子内視鏡で観察しながら血管内でのステントグラフトの手技を施行し,血管を切開後にその中枢端の留置形状を観察した.[結果]コントロール群1体では,腎動脈入口部直下にフィッシュマウスの谷を合わせる形で留置したが,中枢タッチアップ後には腎動脈入口部をカバーする位置まで谷が迫り上がっていた.つづいて腎動脈バルーン形成術によるグラフトの矯正を試みたが,リングステントの復元力により谷が再び迫り上がるため狭窄は解除されなかった.コントロール群のもう1体は迫り上がりを考慮して腎動脈入口部より十分下方に留置したところ,タッチアップによる谷の迫り上がりは観察されず,フィッシュマウスの谷は想定よりも低い位置に留置されていた.一方,介入群2体では,フィッシュマウスを閉じた状態で腎動脈入口部が確認できる位置で留置しAORFIXテクニックを用いた中枢タッチアップを行った.フィッシュマウスの谷に位置するリングステントは密に折り畳まれ,谷は腎動脈入口部下端の血管壁に嵌合するように固定されていた.腎動脈の開口は良好であり,バルーン解除後も谷の迫り上がりは観察されなかった.[結語]臨床において経験するAORFIX AAAステントグラフトの挙動をブタ血管モデルにおいて再現することができた.AORFIXテクニックを用いることで,フィッシュマウスの谷が腎動脈入口部に嵌合するように留置され,バルーン解除後もその形状が維持されていることから,本法はSANの症例に対して再現性が高く有用であるとともに,その効果は永続的である可能性が示唆された.

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