抄録
原発性心臓腫瘍のなかで血管肉腫はまれな疾患で, 比較的若年男子に好発し予後が著しく不良な疾患である. 今回われわれは右心室穿孔による心タンポナーデを初発症状として発症した本疾患の1例を経験した. 穿孔部の心筋の病理組織学的検索では原因不明で, そのまま退院となった. しかし1か月後に突然, 多量の喀血をきたし緊急来院した. 気管支鏡で右B6からの大量の出血があり, 止血困難と判断し緊急手術で右肺下葉切除を行った. 出血巣の病理組織学的検索で血管肉腫と診断された. 前回の右室心筋を再検討したところ, 肺病巣と同一な腫瘍細胞が検出され, この時点で心臓穿孔は心臓の血管肉腫によるものと判明した. 患者は再入院時にすでに両肺野に多発性の転移を認めており, 化学療法を主体とした治療を行わざるをえなかった. 一時寛解したが1か月後に再び多数の転移性陰影を認めるようになり, 呼吸困難を呈し発症後9か月で死亡した. 本疾患の確定診断は悪性腫瘍細胞を証明することであり, 術前診断は非常に難かしい. もし生前に診断が可能であっても有効な治療手段がなく, 今後の有効治療の開発が待たれる.