抄録
12例の肺動脈収縮期圧 (以下PAS) 50mmHg以上のPHを伴う大動脈弁手術症例を経験し, その手術予後について検討するためPAS50mmHg以下の大動脈弁手術症例45例を対照群として比較検討した. 対象は過去15年間に行った他弁疾患を有しない大動脈弁手術症例122例中, 12例 (9.8%) であり, 手術時年齢は14~80, 平均48.4歳, 男性11例, 女性1例であった. 術前のCTRは平均62.8%, PASは52~87mmHg, 平均65.8mmHgであり, またLVEDPは平均29.1mmHgと高値を示した. 術式は, 大動脈弁置換術 (AVR); 9例, AVR+冠動脈バイパス術 (CABG); 1例, AVR+大動脈弁下部組織切除術; 1例, AVR+弁上部拡大術; 1例であった. 一方, 対照群45例のPASは平均27.1mmHgであり, 全例AVRを施行した. 両群について比較検討を行い以下の結論を得た. (1)PH群は術前より心拡大が著明で, 肺機能では拘束性換気障害を伴っていた. しかし, (2)術後肺動脈圧の低下も良好であり, 肺高血圧症が手術の危険因子とは認められなかった. (3)術前LVEDPとPASが良好な相関を示し, PHの成因としては左心機能低下に伴うLVEDPの上昇が示唆された.