抄録
重症大動脈弁狭窄症(severe AS)のなかでも左室駆出率(EF)が低下し,かつ大動脈圧較差(PG)が低値を示す症例の手術適応については議論が多い.対象はASおよびAS優位の軽度閉鎖不全合併例(ASr)に対し大動脈弁置換術(AVR)を行った144例中,EFが35%以下の9例,心機能への影響を考慮し加療を要する冠状動脈疾患を合併した症例は除外した.平均年齢は70.0±9.3歳,男性4例,女性5例であった.左室拡張終期径(LVDd)57.3±5.8mm,左室収縮終期径(LVDs)49.3±5.7mm,心室中隔壁厚(IVSth)11.9±1.9mm,左室後壁厚(LVPWth)11.1±2.6mmと左室の拡大を認める一方,左室心筋の肥厚はみられなかった.大動脈弁口面積(AVA)は平均0.58cm2と重症ASで,大動脈圧較差(peak PG)は65.2±32.7mmHgであった.全例でAVRを行い,術後遠隔期にEFは8例が改善,1例が不変で平均は56.9%であった.ASが進行しEFが低下した症例においても積極的な手術が予後を改善する可能性が示唆された.