日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
Print ISSN : 0285-1474
ISSN-L : 0285-1474
冠動脈バイパス術後にHorner症候群を呈した1例
村上 達哉加藤 裕貴牧野 裕
著者情報
ジャーナル フリー

2007 年 36 巻 5 号 p. 273-276

詳細
抄録

胸骨正中切開による開心術後にHorner症候群を発症することはまれであり,本邦での報告例はほとんどない.症例は77歳,女性.頻回な労作時胸痛を訴え精査したところ,陳旧性下壁梗塞,重症3枝病変,虚血性僧帽弁閉鎖不全症と診断された.手術は仰臥位,左上肢80度水平外転位で開始した.胸骨正中切開後,Delacroix-Chevalier開胸器を用いて約14cm開胸し,胸骨左縁を挙上して左内胸動脈を採取した.左上肢は左橈骨動脈採取後,体側に密着させた.Octo Base開胸器に替え,人工心肺,心停止下に僧帽弁リングによる僧帽弁輪縫縮術および冠動脈バイパス術3枝を行った.術後,覚醒遅延があったが脳梗塞はなく,術後2日目にICUを退出した.同日左眼の眼瞼下垂,縮瞳,眼球陥凹を認め,左Horner症候群と診断した.翌日より左上肢全体の疼痛・しびれ感も出現した.胸部X線写真で左第1肋骨骨折を認めた.これらの神経障害は第1肋骨骨折による頸部交感神経幹および腕神経叢の直接損傷が原因と考えられた.術後21日目退院時には神経症状は軽度となり,術後6ヵ月以内に自然軽快した.このような合併症を防止するため,開胸器による胸郭開大時や内胸動脈剥離時には胸骨・肋骨に過度な外力をかけないよう常に愛護的に操作する必要がある.

著者関連情報
© 特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top