日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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36 巻, 5 号
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  • 中田 朋宏, 猪飼 秋夫, 藤本 欣史, 廣瀬 圭一, 太田 教隆, 登坂 有子, 井出 雄二郎, 坂本 喜三郎
    2007 年 36 巻 5 号 p. 237-244
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    無脾症候群は多種多様な心奇形を合併し,重症度の高い疾患群である.今回,1987~2006年10月末の過去約20年間に当院で初回より手術介入を行った無脾症候群連続71例(1987~1996年:前期群34例,1997~2006年10月末:後期群37例)を検討した.前期群に有意に肺動脈弁狭窄(p=0.010)が多く,後期群で新生児(p=0.010),体重3kg未満例(p=0.037),肺動脈弁閉鎖(p=0.013)が多かった.全例Fontan手術対象で,二心室治療対象例はいなかった.前期群の累積生存率は1年52.9%,5年32.4%と不良であり,原因として,1)右心バイパス到達までの期間が長く,房室弁逆流や長期のチアノーゼによる側副血行路増生などの問題も絡んで,容量負荷による心機能低下を起こしたこと,また,2)肺動脈縮窄を中心とする肺動脈系の問題,総肺静脈還流異常症(TAPVC)を中心とする肺静脈系の問題が絡み合って十分な肺区域の確保が困難であったことが考えられた.そこで後期群で手術方針を変更し,容量負荷を回避して心機能を保護するため,1)早期の右心バイパス手術到達,2)積極的な房室弁形成を行い,また,有効肺区域を可能なかぎり確保するため,3)中心肺動脈領域での肺動脈形成を伴う肺血流路確保(central pulmonary artery strategy),4)TAPVC修復時の吻合手技の改良を行った.また,それらにもかかわらず肺血流が左右不均衡でFontan手術到達困難とされた症例には,5)新しい中間手術:intrapulmonary-artery septationを導入した.結果としては,後期群の累積生存率は1年66.8%,5年53.1%と,前期群に比して改善傾向を認めた(p=0.102).生存における術前りスク因子の検討で,単変量解析で有意であったのは,前期群では,新生児(p=0.036),心外型TAPVC(p=0.049),術前肺静脈狭窄(PVO)(p=0.001),後期群ではTAPVC IV型(p=0.001)であり,多変量解析で有意であったのは,前期群では術前PVO(p=0.038),後期群ではTAPVC IV型(p=0.007)であった.上記の心機能保護と有効肺区域の確保を重要視した治療方針の変更により,より重症度の高い後期群においても成績が改善し,新生児や心外型TAPVC,術前PVOが有意リスクから外れ,TAPVC IV型は今後の課題となった.
  • MIDCABとOPCABの比較検討
    岩橋 英彦, 田代 忠, 森重 徳継, 林田 好生, 伊藤 信久, 竹内 一馬, 手嶋 英樹, 桑原 豪
    2007 年 36 巻 5 号 p. 245-247
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    左前下行枝(LAD)1枝バイパス例に対するoff-pump CABG (OPCAB)について検討した.1997年3月から2000年2月までの30例を対象とし,MIDCAB群22例(左前胸部小切開法),OPCAB群8例(胸骨正中切開法)の2群に分けた.緊急手術症例はOPCAB群で多く(OPCAB群75%:MIDCAB群27.3%),手術時間はMIDCAB群で延長していた(OPCAB群2.1時間:MIDCAB群3.9時間).全死亡,心臓死回避率(5年)はOPCAB群で100%,MIDCAB群で86.4%とややOPCAB群のほうが良好だった.OPCABは,手術時間も短く,遠隔成績も良好と,1枝CABGの手技として有用と考えられた.
  • 南 裕也, 麻田 達郎, 顔 邦男, 宗實 孝
    2007 年 36 巻 5 号 p. 248-252
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    左室内血栓は,急性心筋梗塞(AMI)後の合併症であり,全身の塞栓症の原因となりうる.とくに小さな付着茎で左室壁に付着し可動性のある球形を呈したball-like thrombusは脆弱で全身の塞栓症を惹起しやすい.左室内血栓除去術の適応,時期,方法について検討した.対象は2000年1月~2005年8月の間に左室内ball-like thrombusで,左室内血栓除去術を施行した4例である.全例男性で,年齢は42~61歳(平均年齢53.5歳),基礎疾患は,2例が小範囲の心筋梗塞,1例が急性期広範囲心筋梗塞,1例がたこつぼ型心筋症であった.血栓の最大短径は8~25mm(平均15.8mm)であった.同時手術は,3例に冠動脈バイパス術(CABG),2例にMaze手術,1例に僧帽弁輪形成術であった.左室の切開部に対して,3例にフェルト補強を加えた直接閉鎖,1例にinfarction exclusion technique (Komeda-David法)による修復を行った.全例生存し,在院日数は19~84日(平均46日)であった.AMI超急性期症例の左室切開部には,出血のコントロールと左室リモデリング予防という意味で,infarction exclusion technique (Komeda David法)が有用であった.
  • 多施設臨床試験成績
    高本 眞一, 安田 慶秀, 田林 晄一, 許 俊鋭, 宮田 哲郎, 数井 暉久, 八木原 俊克, 青柳 成明, 伊藤 翼
    2007 年 36 巻 5 号 p. 253-260
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    被覆材として非生分解性材料を用いた新しい大口径人工血管(トリプレックス®,テルモ社製)が開発され,その有効性と安全性について検討した.対象症例は170名で,年齢は28~85歳(69.0±10.0歳:平均値±標準偏差,以下同様)であった.術後12ヵ月の累積開存率は100.0%,拡張比は1.03±0.06(n=139)であった.手術時の操作性は,「良好」と評価された症例が75%以上を占めた.体温およびCRP,WBCの変動に関しては,退院時にはほぼ術前値に回復し,再上昇(再燃)は認められなかった.トリプレックス®との因果関係が否定できない有害事象は33件発生したが,大部分は大動脈手術後の合併症として既知の事象であった.以上,トリプレックス®は手術時に良好な操作性を示し,開存性,耐拡張性にも優れ,術後の炎症反応の遷延や再燃がみられない,大動脈用の人工血管として有用であることが確認された.
  • 北薗 巌, 山下 正文, 本高 浩徐, 岩下 龍史, 上野 隆幸, 福元 祥浩, 四元 剛一, 豊平 均
    2007 年 36 巻 5 号 p. 261-264
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,女性.平成7年肺サルコイドーシス,平成9年心サルコイドーシスと診断されステロイド内服を開始した.平成16年6月以降,脳梗塞,両下肢動脈閉塞をくり返し,平成16年8月右下肢急性動脈閉塞で当科を紹介され,血栓除去術を施行した.心臓超音波検査で,び慢性の左室壁運動低下と両心室内に可動性のある腫瘤を認めた.腫瘍または血栓を疑い,平成16年9月開心術を施行した.両心室内に器質化血栓を認め摘出した.術後経過良好で,第23病日に自宅退院した.心サルコイドーシスによる壁運動低下に伴い,両心室内に血栓を形成したものと考えられた.
  • 予防,止血,術式についての検討
    吉田 誉, 江川 善康, 川人 智久
    2007 年 36 巻 5 号 p. 265-268
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    気管腕頭動脈瘻は気管切開術後の希な合併症であるが,発症すると致命的である.われわれは2例を経験し比較的長期の生存が得られたが,一時止血方法や手術方法に若干の相違があり,利点や反省点につき検討した.症例1は,長めの気管切開カニューレと経口気管チューブを併用し,さらに気管切開孔周囲を圧迫して一時止血を得たのち,右総腸骨動脈-右腋窩動脈バイパス作製後に胸骨正中切開から腕頭動脈離断と気管瘻孔の直接閉鎖を行った.症例2は,長めの気管切開カニューレを気管切開孔から最大限押し込みカフを過膨張させて一時止血を得たが,手術室搬入時にカフがずれて再度大量出血をきたした.手術は胸骨正中切開からePTFEグラフトを用いた解剖学的腕頭動脈再建と自己心膜パッチによる気管瘻孔閉鎖を行った.気管腕頭動脈瘻の治療でもっとも重要な点は予防である.気管切開後に少量の新鮮血出血が持続するなど先行症状を認めた場合には,大量出血にいたる前に気管支鏡やCTなどで早期に発見し手術治療を考慮すべきと思われる.しかし,大量出血をきたした場合には,一時止血と気道の維持が問題となる.われわれの経験では,症例1では良好な一時止血が得られたものの症例2ではカニューレの長さが不足して止血が不確実であった.手術方法としては,術野の汚染がない場合には解剖学的な腕頭動脈への血行再建と気管痩孔の閉鎖が理想的と思われるが,大きな痩孔の存在など術野の汚染が考えられる場合には非解剖学的血行再建を選択せざるを得ない場合もあり,感染予防や遠隔期予後の点からも早期の発見,治療が重要と考えられた.
  • 郷田 素彦, 井元 清隆, 鈴木 伸一, 内田 敬二, 小林 健介, 伊達 康一郎, 初音 俊樹, 沖山 信, 加藤 真
    2007 年 36 巻 5 号 p. 269-272
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は83歳,女性.心タンポナーデに伴うショックの診断で当院へ搬送された.心電図所見,心筋逸脱酵素の上昇から急性心筋梗塞とそれに伴う左室破裂と診断し,心嚢ドレナージを施行した.その直後にblow out型の左室自由壁破裂をきたしPEA(pulseless-electrical-activity)となったため,ただちに胸骨正中切開により心臓に到達し,左室後側壁の破裂孔からの噴出性出血を確認,gelatin-resorcinol-formaldehyde(GRF)glueによる圧迫止血を開始した.圧迫のみでは止血できなかったが,当初は脆弱で縫合困難と思われた破裂孔付近の梗塞心筋が,圧迫後はGRF glueによると思われる変性で強度が増したため,容易に縫合止血しえた.心不全管理に時間を要したが,術後103日目に軽快退院した.GRF glueによる組織壊死の報告があり,今後も厳重な経過観察が必要ではあるが,救命困難な本症に対する緊急手術の術式として,有効と考えられた.
  • 村上 達哉, 加藤 裕貴, 牧野 裕
    2007 年 36 巻 5 号 p. 273-276
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    胸骨正中切開による開心術後にHorner症候群を発症することはまれであり,本邦での報告例はほとんどない.症例は77歳,女性.頻回な労作時胸痛を訴え精査したところ,陳旧性下壁梗塞,重症3枝病変,虚血性僧帽弁閉鎖不全症と診断された.手術は仰臥位,左上肢80度水平外転位で開始した.胸骨正中切開後,Delacroix-Chevalier開胸器を用いて約14cm開胸し,胸骨左縁を挙上して左内胸動脈を採取した.左上肢は左橈骨動脈採取後,体側に密着させた.Octo Base開胸器に替え,人工心肺,心停止下に僧帽弁リングによる僧帽弁輪縫縮術および冠動脈バイパス術3枝を行った.術後,覚醒遅延があったが脳梗塞はなく,術後2日目にICUを退出した.同日左眼の眼瞼下垂,縮瞳,眼球陥凹を認め,左Horner症候群と診断した.翌日より左上肢全体の疼痛・しびれ感も出現した.胸部X線写真で左第1肋骨骨折を認めた.これらの神経障害は第1肋骨骨折による頸部交感神経幹および腕神経叢の直接損傷が原因と考えられた.術後21日目退院時には神経症状は軽度となり,術後6ヵ月以内に自然軽快した.このような合併症を防止するため,開胸器による胸郭開大時や内胸動脈剥離時には胸骨・肋骨に過度な外力をかけないよう常に愛護的に操作する必要がある.
  • 岩橋 和彦, 岩崎 倫明, 神田 裕史, 安宅 啓二
    2007 年 36 巻 5 号 p. 277-280
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,女性.一過性の左上肢塞栓症状により発症し,心エコーで心房中隔が卵円窩部で腫瘤状に肥厚し,さらにその一部が左房腔内に突出する像を認めた.左房内血栓または腫瘍の診断で手術を行ったところ,腫瘤は心房中隔壁内(卵円孔内)の血栓であり,一部は左房腔内に露頭していた.このため静脈系血栓が開存卵円孔内に捕捉され,その一部が遊離し左上肢の塞栓症をひき起こしたものと考えられた.血栓を含め心房中隔卵円窩を切除しPTFEパッチで閉鎖して手術を終了した.術後経過は良好で塞栓症の再発なく退院した.静脈系血栓が開存卵円孔を通り動脈系塞栓を発症する奇異性塞栓症の存在はよく知られており,心エコーで卵円孔に捕捉された血栓をとらえた報告も散見されるが,手術的に卵円孔内の血栓を確認した報告は少ない.本症例は卵円孔内に血栓が侵入する現象を肉眼的に証明したものであるとともに,動脈系塞栓症をきたした症例においては,本症の存在を念頭におき心精査および静脈系血栓の有無の精査が必要であることを啓蒙する1例である.
  • 中村 浩己, 浅井 友浩, 村上 美樹子, 齋藤 洋輔, 須田 優司, 山口 裕己
    2007 年 36 巻 5 号 p. 281-283
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は92歳,女性.下腹部痛と腰痛を主訴に前医を受診し,腹部大動脈瘤の疑いのため救急紹介された.CT検査で最大径85×73mmの右内腸骨動脈瘤を認め,切迫破裂が疑われた.腹部正中切開,経腹膜的アプローチで,緊急手術を施行した.後腹膜腔と腸間膜に血腫が認められ,sealed ruptureと考えられた.分岐型グラフト(Intergard 16×8mm)を用いて腹部大動脈人工血管置換術を行った.術当日に抜管し,術後2日目にICUを退室した.その後の経過も良好で,十分なリハビリののち,術後13日目に独歩で退院した.本症例は,検索しえた範囲内で,最高齢の内腸骨動脈瘤手術例であった.
  • 加藤 秀之, 平松 祐司, 坂 有希子, 野間 美緒, 金本 真也, 阿部 正一, 榊原 謙
    2007 年 36 巻 5 号 p. 284-287
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    肺動脈絞扼術後に急速に進行した大動脈弁下狭窄に対して,早期にDamus-Kaye-Stansel(DKS)吻合術を行って奏効した大動脈弓低形成を伴う単心室症,両大血管右室起始症の1例を報告する.症例は右室型単心室症,僧帽弁閉鎖症,両大血管右室起始症,大動脈弓低形成,心房中隔欠損症および動脈管開存症の新生児.日齢4に拡大大動脈弓形成術と肺動脈絞扼術を行った.生後70日ころからチアノーゼと多呼吸が出現し,強度の大動脈弁下狭窄による著しい肺高血圧と診断された.ただちにDKS吻合術,心房中隔欠損拡大術,右modified Blalock-Taussig手術を行い回復した.本症例のような大動脈弓低形成を伴う単心室症は肺動脈絞扼術後の大動脈弁下狭窄進行に関するハイリスク群であり,第1期手術として肺動脈絞扼術と大動脈弓形成を選択した場合には,早期の大動脈弁下狭窄解除の必要性を念頭において厳重な経過観察を行う必要があると考えられた.
  • 河瀬 勇, 河田 政明
    2007 年 36 巻 5 号 p. 288-291
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例はFallot四徴症がありながら手術を受けずに生活してきた44歳男性.2~3年前から労作時息切れや胸部不快感がみられるようになり,約半年前から断続的に発熱・咳が現れた.2006年1月に38℃以上の発熱が下がらず緊急入院,心エコーで三尖弁に巨大疣贅を認め感染性心内膜炎として抗生剤治療を行ったが,3週目に感染性肺塞栓を起こして感染コントロール不良のため準緊急手術となった.手術には,感染コントロールと循環動態の安定化を目的に,できるだけ異物使用をおさえたFallot四徴症手術と三尖弁形成術が必要と考えた.三尖弁の疣贅は3尖すべての広範囲に及んでいたが,弁置換術・弁切除術は避け,自己心膜を用いた弁形成術とした.三尖弁狭窄を伴う形成術とし,これに両方向性Glenn手術を追加することによって,手術を無事終了した.術後は,術前塞栓性肺炎を起こした部位が肺膿瘍となったがドレナージ術により軽快し,術後12ヵ月経った現在も元気に通院している.
  • 川人 智久, 富永 崇司, 江川 善康
    2007 年 36 巻 5 号 p. 292-294
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は10歳の女児で,完全型房室中隔欠損に対し生後6ヵ月時に2パッチ法による心内修復術,2歳時に左側房室弁置換術(SJM-HP-17mm)が行われていた.今回,人工弁狭小化のため再手術を行ったが,古い人工弁と周囲の肥厚した心内膜の切除のみでは十分な弁口の拡大が得られず,VSDパッチを切り込んでパッチで補填する弁輪拡大を行い2サイズアップのSJM-HP-21mmで再弁置換を施行,術後経過は良好であった.僧帽弁位の人工弁置換では弁輪拡大法として確立された手技はなく,本方法は左室流出路狭窄を伴わない完全型房室中隔欠損患児においてのみ可能な方法ではあるが,安全かつ容易に人工弁のサイズアップが得られる有用な方法と考え報告した.
  • 軽部 義久, 孟 真
    2007 年 36 巻 5 号 p. 295-297
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,女性.2003年8月より労作時息切れがあり,他医で精査の結果,3枝病変の狭心症と診断されたが,胃静脈瘤合併のために手術適応なしとされていた.その後,症状が増悪したため2004年3月当院受診,胃静脈瘤は径30mmと巨大ではあるが発赤所見など認めず出血のリスクは低いと考えられた.また,肝硬変を合併していたが,Child-Pugh分類はgrade Aであり肝機能も保たれていることから手術可能と判断した.周術期の出血および合併症を回避するため心拍動下手術を選択し,2004年4月心拍動下冠動脈バイパス術3枝(RITA-LAD#8,LITA-LCx#14,Ao-RA-#4AV)を施行,術後経過は良好で術後12日目に軽快退院した.食道胃静脈瘤合併症例は静脈瘤出血のリスクと肝機能の両面から手術適応を含めた治療方針を考慮するべきと考えられた.
  • 中西 智之, 水野 友裕
    2007 年 36 巻 5 号 p. 298-300
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    感染性心内膜炎(IE)に起因した深大腿動脈の破裂性感染性動脈瘤という希な疾患を経験したので報告する.患者は59歳,女性.熱発,食思不振を主訴に近医を受診され,精査でIEと診断された.加療目的に当院へ紹介となり,病状から保存的に治療する方針となった.入院6日目に右大腿内側の疼痛を突然訴え,疣贅による塞栓症と診断した.塞栓症の発症に加え,心エコーで疣贅の増大もみられたため,準緊急で大動脈弁置換術,僧帽弁置換術を施行した.術後経過は良好であり術後2週間で炎症反応も陰性化した.ところが術後3週間して再び右大腿内側の疼痛,腫脹を訴えた.CTを施行し,深大腿動脈末梢部の血腫を認め,感染性右深大腿動脈瘤破裂と診断した.感染がコントロールされていたため,同日,瘤の流入血管である中枢側深大腿動脈を局所麻酔下に結紮して止血し,保存的にみる予定としたが,軽度の感染兆候の再燃を認めたため,人工弁置換後であることを考慮し,後日,感染性動脈瘤の完全切除を行った.患者は現在外来通院中であるが,術後1年を経過し,感染の再燃や瘤の再発,下肢の虚血症状などは認めていない.
  • 松木 克雄, 藤原 英記, 小田 克彦
    2007 年 36 巻 5 号 p. 301-304
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    下行大動脈内に浮遊するmassが血栓塞栓症の原因となることは希である.今回われわれが経験した症例は,43歳女性で,これまでとくに血栓塞栓症の既往はみられなかったが,初めに右腎梗塞を発症し,続けて脾梗塞を生じたため当院に入院となった.経食道心エコー検査(TEE)を行ったところ,下行大動脈内に浮遊性の尾状索状のmassを認め,造影CTでも,動脈管索付近に付着部を有し下行大動脈に広がるmassがみられた.腎梗塞・脾梗塞はmassから血栓が飛散し血栓塞栓症を起こしたものと考え,まず抗凝固療法を行ったのちに,外科的にmass(血栓)を除去した.術後の入院中に血栓塞栓症の再発はみられず,経過は良好であった.大動脈内に浮遊性血栓がみられた場合には,抗凝固療法を先行して行い,重篤な合併症をひき起こす前に,除去することが重要である.
  • 宇野 吉雅, 鈴木 孝明, 保土田 健太郎, 石田 治, 福田 豊紀
    2007 年 36 巻 5 号 p. 305-308
    発行日: 2007/09/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は16歳,男性.生来自覚症状,異常所見を認めなかったが,7歳肺炎罹患時に胸部単純写真で右肺の異常陰影を指摘された.その後の精査でscimitar症候群と診断されたが,経過観察となっていた.今回15歳時の心臓カテーテル検査で,肺体血流比の上昇を認めたため手術施行となった.手術は,上行大動脈送血,上大静脈+大腿静脈2本脱血の体外循環,心停止下に右肺静脈移植と右房内血流転換を行った.本症例では心房中隔欠損がなく,右肺静脈は横隔膜位で下大静脈に開口しているうえに左房とは距離が離れていたため,これを右房側壁に移植したのち,新たに作製した心房間交通を介して肺静脈血が左房に還流するよう右房内baffleにより血流転換を行った.術後経過は良好で,心エコー上もスムースなbaffle内血流が確認された.なお,右肺静脈移植の手術操作に際して,吸引補助脱血を併用することにより下大静脈の遮断を必要とせず良好な無血視野が得られた.
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