抄録
種々の熱処理を施した12mass%金含有歯科用銀パラジウム銅金合金加工材につき, 人工唾液中で疲労試験を行い, その疲労特性に及ぼす人工唾液環境の影響について検討するとともに, そのときの疲労破壊メカニズムについての解析を行った.人工唾液中における各熱処理材の疲労強度は, 低サイクル疲労寿命領域では大気中とほぼ同等の疲労強度を示したが, 高サイクル疲労寿命領域では時効材の疲労強度が大気中のそれより低下した.時効材では, β相が多く析出しているため, β相と母相との界面で腐食が進行し, そこへの応力集中が顕著となるため, 人工唾液中における高サイクル疲労寿命領域での疲労強度が大気中のそれに比べ低下すると考えられる.β相の存在が, 本合金の人工唾液中, すなわち疑似口腔内環境での疲労強度を低下させる原因となる.