抄録
歯科矯正治療におけるダイレクト・ボンディング法のもつ問題点の解決を主目的とした研究を行っているが, 今回はシアノアクリレート系接着剤を取りあげた.すでに我々は第一報で接着強度に対する熱の影響を検討し, 樹脂の熱可塑性という性質をデボンディングに応用する可能性について言及した.また第二報では歯面の酸処理液にフッ化物を添加して塗布したところ, 歯質表面でのフッ化カルシウムの析出によると思われるエナメル質の表面性状, および接着強度が変化することを確認した.今回はシアノアクリレート系接着剤がもつ良好な操作性や, 強力な接着力の割には耐衝撃強度が劣っているといった性質に着目し, これを取りあげることにした.そこで歯科矯正治療における接着の対象物となる歯面, ステンレス鋼, およびプラスチックの代表としてはアクリル樹脂を選び, それらの接着の耐久性をパーコレーションテストにより判定し, 実際の臨床応用の可能性について再検討した.また, これらの接着強度に対する熱の影響についても第一報と同様にして検討した.さらに, 第二報における歯の表面処理液を適用したときの接着強度について検討した.また, 耐衝撃性については, 単純引張試験法で, 引張速度を変えてその傾向をみるとともに, アイゾット試験法に準じた方法により実際に測定した.その結果, ステンレス鋼に対してはシアノアクリレート系接着剤は接着性が低く, 特にパーコレーションテストに対してはほとんど抵抗性がないこと, 一方, アクリル樹脂に対しては一般に接着性がすぐれ, 特にアクリル樹脂相互の接着では良好な耐久性を有することが確認された.引張速度の影響では, それが大きいほど, 接着強度が低下する傾向を示した.また耐衝撃性の検討では, 単純引張強度と比較して, その強度が非常に劣っていたが, ブラケットとの接着をみた場合, 他の歯科用接着剤よりもやや小さい強度を示していた.一方, 歯に表面処理液を適用した後の強度は, 表面処理液中のフッ化物濃度が1%程度のものでは, 単純引張強度, 耐衝撃強度とも, フッ化物を添加しないものより大きくなる傾向がみられた.