抄録
無菌顎の印象採得時に生じる圧力は, 印象材の流動特性, トレーの形態, 圧接条件等によって決まるものと思われる.そこで, この流体力学的問題に関して, 印象採得を模した単純なモデル(2枚の平行円板間におけるポリサルファイド液状ポリマーとシリコーンオイルの圧縮流動)を用いて, 実験を行うとともに数値解析的な検討を行った.
解析結果は, 実験結果とよく似た傾向を示したが, 絶対値では解析値のほうが幾分大きかった.この差異の原因は, 試料の弾性効果によるものと思われる.
トレー圧接力と圧力は, 円板間の幅(試料の厚さ)の2.7〜2.8乗に逆比例し, 圧力の分布はトレー中心部で最も高く, 辺縁部で0となるような放物線を示した.
解析結果によれば, この圧力分布は流動する試料のせん断速度の分布を反映したものであり, さらに, せん断速度は円板間の幅に依存している.したがって, トレー内での流動状態を左右する幾何学的な条件, 言い換えれば, トレーと被印象面との幅は, トレー内圧力を決定する重要な因子であるといえる.