抄録
歯科用合金の腐食速度を自然腐食状態を乱すことなく求めるために, 分極抵抗法の適用を検討した. 貴金属成分を多く含有する耐食性の良い合金は, 微小な印加電流に対して電位の変化が大きく, 短時間では定常状態に達しない. このような場合は, 矩形波電流に対する電位の過渡応答の理論的解析から外挿により電位応答の定常値を求め, 分極抵抗を導出した. Ag合金, Ni-Cr合金, Co-Cr合金およびAu-Pd-Ag合金11種について分極抵抗を腐食速度に変換する定数Kの値を実験的に求めたところ, 14〜35mVの範囲の値が得られた. 腐食速度の小さな合金でK値は小さくなる傾向が見られたが, 値が合金によりオーダを越えて変化することはなかった. これらの結果より, 腐食速度を精度良く求める場合には各々の合金についてK値を検討しなければならないが, 通常は平均値25mVを採用することにより分極抵抗から腐食速度が求められ, 歯科用合金の耐食性を比較できることが明らかとなった.