発達心理学研究
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乳児の泣き声に対する父親の認知
神谷 哲司
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2002 年 13 巻 3 号 p. 284-294

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抄録

本研究は,リスク得点によって定義された2種の乳児の泣き声を,テープ刺激を用いて呈示し,青年期後期から成人期初期にいたる男性が泣き声をどのように知覚し,泣き声に対する認知的枠組みを持っているかを検討した。対象者は学生群45名,新婚群10名,初妊夫群15名,父親群27名。その結果,すべての群において泣き声の弁別はなされること,泣き声に対しては学生群の方が父親群よりもネガティヴなものとして知覚することが示された。また,泣き声の知覚は,父親群で育児行動の頻度と関連することが示され,初妊夫群で性役割観や養育経験に関連することが示唆された。さらに,泣き声に対する認知的枠組みを検討するために,泣き声の生起原因を類推させたところ,学生群,新婚群では泣きの弁別と生起原因とに関連はみられなかったが,初妊夫群と父親群において痛みを原因とする類推と泣き声の種別とが関連していた。このことから,乳児の泣き声がもつ火急性の高低を手がかりとした認知的枠組みを父親や初妊夫が形成していることが示唆される。以上を成人期における親発達の観点から考察すると,妊娠,育児という生活を通して,男性においても子どもの泣きに対する認知的枠組みを形成するものと考えられ,早期の育児に関するコンピテンスを持ち得ることが示唆された。

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© 2002 一般社団法人 日本発達心理学会
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