発達心理学研究
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13 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 天谷 祐子
    原稿種別: 本文
    2002 年 13 巻 3 号 p. 221-231
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー
    「私はなぜ私なのか」「私はなぜ存在するのか」「私はどこから来たのか」「私はなぜ他の時代ではなくこの時代に生まれたのか」といった問い等,純粋に「この私」,世界も身体も剥ぎ取った純粋な「私」といった意味での「私」についての「なぜ」という問いが発せられる現象-自我体験-を解明することが本研究の目的である。自我体験が一般の「子ども」に見られるという仮定のもと,先行研究や哲学の存在論的問いを参考に,自我体験の下位側面を「存在への問い」「起源・場所への問い」「存在への感覚的違和感」と仮定した。そして中学生60名を対象として,半構造化面接法により自我体験の収集を行った結果,38名から51体験の自我体験が得られた。そして自我体験の3つの下位側面がそれぞれ報告され,小学校後半から中学にかけてを中心としたいわゆる「子ども」時代に初発することが示された。自我体験は子どもにとっては身近なものであることが示された。
  • 内田 伸子, 大宮 明子
    原稿種別: 本文
    2002 年 13 巻 3 号 p. 232-243
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー
    生物的・物理的な現象を説明するときには私たちはいくつかの理由づけのシステムを用いている。本研究では説明に用いる理由づけシステムにおける領域知識の獲得と推論枠組みの関係について検討するために2つの実験を行った。実験1では,3・4・5歳児と大人合計120名に自然現象の条件推論の形式を翻案した4つの問からなる「説明課題」を与えた。実験2では5歳前半児,5歳後半児と大人合計90名に実験1と同じ形式の説明課題を与えた。これらの課題は既知文脈と未知文脈に埋め込まれている。被験者は2度のWH質問に対して詳細な理由づけを行った。実験結果は次の通りである:(1)幼児は説明課題の解決において大人に匹敵するような推論を行った。(2)3歳児すら帰納推論だけではなく演繹的推論を行うことが可能であった。(3)幼児は,心の理論や生物学,物理学などの分化した領域知識に基づいて柔軟で適切な説明を行うことができた。子どもの(4)領域固有の知識を獲得するに伴い,領域一般の推論スキーマに基づく帰納的推論や演繹的推論が活性化された。また,大人の説明は,推論を働かせた非常に洗練された説明か,機械的記憶のあてはめによる資源節約型の説明のいずれかに二極化した。(1)と(2)の結果は,推論枠組みは領域一般の知識であることを含意している。一方,(3)と(4)の結果は科学的知識の増大は帰納的推論や演繹的推論を活性化するのに強い影響をもつことを示唆している。
  • 土田 宣明
    原稿種別: 本文
    2002 年 13 巻 3 号 p. 244-251
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究では,反応抑制の基本的機能が形成される幼児を対象にして,幼児でも楽しめる実験課題を用い,復帰抑制の現象を検討した。ここでいう復帰抑制とは場所弁別課題において,先行して刺激が提示された側に続いて刺激が提示されたとき,反応潜時が長くなる現象を指す。次の2点を中心に検討を加えた。1.意図的な手の運動操作課題で,幼児期においても復帰抑制の現象が確認できるのか否か。2.復帰抑制が機能しているとしたならば,そこにどのような発達的変化がみられるのか。対象は保育園の4歳児20名と5歳児24名の計44名である。実験方法として,パソコンのディスプレイに提示される刺激に対応して,左右のスイッチを押し分ける課題を用い,刺激の提示から反応までの反応潜時を計測した。実験の結果,主として,1.意図的な手の運動操作課題で,4歳児の段階から復帰抑制の現象が確認できたこと。2.その復帰抑制の現象は反応の困難度の影響をうけ,反応の困難度が増加するほど強く機能することの2点が確認された。今回の結果は,行動調節機能の形成過程のかなり初期から,復帰抑制の現象が機能していること示唆していること,さらに,自己調節系としての人間の発達にとって,潜在的なプロセスの重要性を示唆しているものと思われた。
  • 畠山 美穂, 山崎 晃
    原稿種別: 本文
    2002 年 13 巻 3 号 p. 252-260
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究の主な目的は,以下の2点について検討することにある。第1に,攻撃する側が攻撃を行うに至った原因(相手の行為や攻撃する側の意図)を文脈にそってタイプ別に分類する。第2に攻撃行動のタイプと,性別,仲間内地位および,攻撃加害者の人数について明らかにする。本研究では,幼稚園年長児34名(男児16名・女児18名)の自然発生的に生起する攻撃行動を1年間観察した。1年間に160の攻撃事例が観察され,観察された幼児の攻撃行動は,直接的-道具的攻撃と直接的-脅し攻撃および,関係性攻撃の3つのタイプに分類された。2つの直接的攻撃は女児に比べて男児に,関係性攻撃は男児に比べて女児に多く観察された。さらに,関係性攻撃は,核児が他の地位の子どもと比較して最も多く行っていた。また,孤立児が関係性攻撃の被害を最も多く受けていた。
  • 坂上 裕子
    原稿種別: 本文
    2002 年 13 巻 3 号 p. 261-273
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究ではK児と母親の日常生活場面を,Kが15〜27カ月齢の約1年間観察し,両者の葛藤的やりとりの縦断的変化を検討した。母親の非難・叱責に対するKの情動反応と母親の対応の変化に着目して分析を行った結果,3つの時期が抽出された。I期:簡潔な言葉や情動表出を介して母親からKに行為の社会的意味(行為の是非や謝罪・修復の必要性)が伝えられる。Kからは快情動や緊張が示されることが多く,自発的な謝罪・修復はまだみられなかった。II期:非難・叱責に対するKの反応として不快情動が多くみられたが,一方では母親の謝罪・修復の要求に対する従順さや自発的な謝罪・修復行動もみられた。母親には,Kの行為に意図や責任を帰属させる発言がみられた。II期には母親の情動表出や言葉の摸倣を通じて,Kに行為の社会的意味が取り入れられ始めたものと推察された。III期:非難・叱責に対するKの情動反応に分化が認められ,怒りに関連した行動(言語的距離化や謝罪・修復の拒否)と罪悪感に関連した行動(自発的な謝罪・修復)の両方がみられた。母親には,Kにより理解や譲歩を求める対応(交換条件や脅し,距離化)がみられた。III期には,母親とKの間で意図や心理的・物理的距離の相互調整が始まったものと推察された。総じるとこの時期には,子どもの情動分化と理解力の発達,母親の対応変化の三者によって,母子のやりとりが相互調整的なものへ再組織化されることが示唆された。
  • 金 敬愛, 仲 真紀子
    原稿種別: 本文
    2002 年 13 巻 3 号 p. 274-283
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー
    親が子どもから過去の体験や出来事をどのように引き出すかは,子どもの自伝的記憶やナラティブスキルの形成に影響を及ぼすと考えられている。本研究では,中国人3,4,5歳児(N=46)とその父母を対象に,過去の出来事をめぐる対話場面を収録し,以下の2点を検討した。第1は,子どもの発達に伴い,親の発話はどのように変化するのか,第2は,母親と父親で発話に違いがあるのか,である。親の発話を,発話量,発話の文法的形式,発話内容,発話の機能(発話の仕方に関する発話)に分類し,分析した結果,(1)子どもの年齢に応じて親の発話量は減少すること;(2)形式的には,子どもの年齢が低いほどyes-no,what,復唱質問が多いこと;(3)機能的には,3,4歳児の親は「これまで話してきた出来事についての詳細情報」を求め,また「確認」を多く行うこと;(4)全体を通じ,父親は母親よりも発話量が多く,特に4歳児に対してはyes-no質問や復唱質問が多いことなどが明らかになった。3歳児の親は,子どもの語りを積極的に援助し,また父親は母親とは異なる形で援助を行っているといえる。
  • 神谷 哲司
    原稿種別: 本文
    2002 年 13 巻 3 号 p. 284-294
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,リスク得点によって定義された2種の乳児の泣き声を,テープ刺激を用いて呈示し,青年期後期から成人期初期にいたる男性が泣き声をどのように知覚し,泣き声に対する認知的枠組みを持っているかを検討した。対象者は学生群45名,新婚群10名,初妊夫群15名,父親群27名。その結果,すべての群において泣き声の弁別はなされること,泣き声に対しては学生群の方が父親群よりもネガティヴなものとして知覚することが示された。また,泣き声の知覚は,父親群で育児行動の頻度と関連することが示され,初妊夫群で性役割観や養育経験に関連することが示唆された。さらに,泣き声に対する認知的枠組みを検討するために,泣き声の生起原因を類推させたところ,学生群,新婚群では泣きの弁別と生起原因とに関連はみられなかったが,初妊夫群と父親群において痛みを原因とする類推と泣き声の種別とが関連していた。このことから,乳児の泣き声がもつ火急性の高低を手がかりとした認知的枠組みを父親や初妊夫が形成していることが示唆される。以上を成人期における親発達の観点から考察すると,妊娠,育児という生活を通して,男性においても子どもの泣きに対する認知的枠組みを形成するものと考えられ,早期の育児に関するコンピテンスを持ち得ることが示唆された。
  • 長尾 博
    原稿種別: 本文
    2002 年 13 巻 3 号 p. 295-306
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,青年期の自我発達上の葛藤から不適応状態への心理過程を明らかにするものである。Cattellの自我強度尺度得点は,Barronの自我強度尺度得点とに高い相関があり,また,Coddingtonの生活変化単位尺度得点は,日本の研究者が作成した中学生・高校生用の学業ストレス尺度得点とに正の相関が認められたことから,Cattellの自我強度尺度とCoddingtonの生活変化単位尺度の併存的妥当性が検証できた。次に,202名の中学生・高校生に対してCattellの自我強度尺度,Coddingtonの生活変化単位尺度,及び長尾(1989)による青年期の自我発達上の危機状態尺度(ECS尺度)を実施した。Lazarus(1999)のシステム理論にもとづいてパス解析を行った結果,ECSから不適応へいたる過程は2通り明らかにされた。その一つとして,ライフイベントのない中学生の場合,自我の強さがECSの葛藤内容に影響を及ぼし,その葛藤が自責という対処行動によって増加され,その結果,不適応にいたる過程があげられた。2つ目に高校生の場合,自我の強さとライフイベントの衝撃度とが自我発達上の葛藤に相互に働いて,自責という対処行動も加わり,その結果,不適応にいたる過程があげられた。
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