発達心理学研究
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幼児を持つ母親の「母性愛」信奉傾向と養育状況における感情制御不全
江上 園子
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2005 年 16 巻 2 号 p. 122-134

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抄録

母親の「母性愛」を信奉する傾向がポジティヴな結果をもたらすだけではなく, 子どもの発達水準の認知という要因との交絡によっては養育場面でネガティヴに転化するという可能性を実証した。研究Iでは, この「『母性愛』信奉傾向」を「社会文化的通念である伝統的性役割観に基づいた母親役割を信じそれに従って養育を実践する傾向」と定義し, 「『母性愛』信奉傾向尺度」を作成し, 信頼性・妥当性についての検討を行った。研究IIでは, この尺度を用いて, 「母性愛」信奉傾向が高く子どもの発達水準を低いものであると認知している母親の場合は, 怒りの感情制御が困難になるという仮説の検証を行った。その結果, 「母性愛」信奉傾向と子どもの発達水準との交互作用が怒りの感情制御に影響することを一部で明らかにした。つまり, 子どもの発達水準が高い場合は「母性愛」信奉傾向の高さはポジティヴに作用するが, 発達水準が低い場合はポジティヴに作用せず, むしろネガティヴな影響を与えうることが示唆された。したがって本研究は, ポジティヴ/ネガティヴの二分法的に議論されがちな「母性愛」を両方の可能性を秘めたものとして解釈し, 「母性愛」を「両刃の剣」であると結論した。

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© 2005 一般社団法人 日本発達心理学会
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