発達心理学研究
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中年期のアイデンティティ発達研究 : アイデンティティ・ステイタス研究の限界と今後の展望
清水 紀子
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2008 年 19 巻 3 号 p. 305-315

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抄録

中年期のアイデンティティ発達研究の多くは,青年期のアイデンティティが中年期に再構成されるという発達観にもとづき,青年期用に開発されたアイデンティティ・ステイタスを用いた検討を行っている。本論文は,それらの研究の成果をまとめると共に,アイデンティティ・ステイタスの限界を示唆する新しい研究の論点を整理し,今後の中年期研究の展望を論じることを目的とした。最初に,アイデンティティ・ステイタスによる研究を概観し,これらの研究の中にも,中年期は青年期の単なる繰り返しではなく独自のプロセスや内容があるとする知見が提出され始めていることを指摘した。次に,アイデンティティ・ステイタスでは捉えきれない新しい側面からの中年期研究として,再構成の過程をさらに細かなメカニズムまで理解しようとする研究と,中年期特有のアイデンティティ課題を定義しようとする研究を取り上げ,それらが示唆するアイデンティティ・ステイタスの方法上の限界を整理し,論点を比較した。その結果,個々の概念の定義や観点にはいくつかの共通点が見出された。最後に,中年期特有のアイデンティティ課題を定義しようとする研究への動向における理論的示唆として,再構成という発達観からの脱却と対人関係性や状況の変化に応じられるアイデンティティ概念の新たな定義の必要性を指摘した。

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© 2008 一般社団法人 日本発達心理学会
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