抄録
本研究は,ある5歳男児(Y)の就学期にかけての母と学童期の兄姉との夕食場面の会話での言語的やりとりを通してみられる家族間コミュニケーションの発達的変化について,母と兄姉間の会話へのYの参入過程に焦点をあて検討を行った。会話の全体的な変化として,Yの就学期にはYの発話量が増加し,母を軸とした母子4者間のやりとりがより活発となることが推察された。また,Yの就学期前にはYと兄姉との教示的なやりとりが多くみられ,Yの就学期では就学期前からみられた『出来事の回想や人の行為や内的状態等』に関するやりとりがYと母や兄姉との間で中心となったことから,環境移行を伴う就学期だけでなく就学前の早い時期から,学校への適応に重要と考えられる,学校教育にも広く関わる知識や教養及び,学校での経験や教師・友人に関する内容を含むやりとりがなされていることが窺えた。母・兄姉間の会話へのYの参入過程については,観察開始直後(Yの就学期前/1期)では効果的な参入に結びつきにくい参入コメントが中心であったが,就学期にかけて,話題の文脈に沿った効果的な参入や兄姉や母との一定のテーマに沿った会話の継続がより一層可能になることが示された。また,Yの自主的な参入コメントへの応答に関し,母はより受容的な応答がみられ,文脈に直接的にはつながらない参入コメントに対しても多様な応答がなされるなど,母ときょうだいの関わりの違いが示唆された。