抄録
本研究では,実行機能,特にワーキングメモリと葛藤抑制の機能が他者の誤信念に基づく行動への理由づけにどのような影響を与えるのかを検討した。3〜5歳児70名を対象に理由づけ質問を含む誤った信念課題と実行機能課題,語彙検査を実施した。結果,月齢や言語能力の影響を除いても,単語逆唱スパン課題で測定されたワーキングメモリの機能が他者の誤った行動に対する適切な理由づけに影響することがわかった。この結果は,他者の誤った行動に対して,過去の他者の行動や認識状態に言及して理由づけするためには,呈示されたストーリーの内容を保持しておき,求められたときにストーリー中の必要な情報を活性化することが必要になることを示唆している。加えて,赤/青課題で測定された葛藤抑制の成績が,現在の状況に固執した理由づけを行うかどうかを予測することがわかった。この結果は,他者の誤った行動に対しても,現在の現実の状況のみに言及する子どもは,葛藤抑制の機能が弱く,対象の場所のような現在の情報を抑制しておくことが難しいことを示している。