2010 年 21 巻 3 号 p. 266-277
本研究は,Erikson(1950/1977・1980)の精神分析的個体発達分化の図式Epigenetic schemeにおいて空欄となっている老年期における8つの心理社会的課題を示し,Erikson,Erikson,&Kivnick(1986/1990)との比較から,日本における心理社会的課題の特質を検討することを目的とした。高齢者20名を対象にErikson et al.と同様の手続きによる半構造化面接を行った。その結果,8つの心理社会的課題を説明する肯定的要素と否定的要素,および課題に取り組むための努力である中立的要素がそれぞれ抽出された。これらより,第VIII段階における8つの心理社会的課題を具体的に示した。また,各課題に取り組む際に,戦争体験,家制度,社会の中での高齢者の地位という日本独自の文化が影響していることが示唆された。以上の知見は社会参加に積極的な人々における心理社会的課題の取り組み方を示すものであり,特に高齢者の心理社会的課題を理解する上で重要であると考えられた。