抄録
本研究では,独身勤労女性152名を対象とし,出産後に計画している仕事とのかかわり方(継続型,一時離職型,退職型,未確定型の4つのライフコース)とアイデンティティとの関連を検討した。価値が置かれている生活領域でのアイデンティティは,個全体としてのアイデンティティに大きく影響するといわれることから,「家庭(実家)」,「余暇活動」,「職場」,「習い事」,「友人関係」の5領域を用い,重視している生活領域とその重要性の程度,そしてアイデンティティとの関連の中でライフコースの差異を検討した。その結果,「職場」領域ではなく「家庭」領域にライフコースによる差がみられた。退職型および一時離職型女性は継続型女性よりも「家庭」領域を重視していたことから,就業を継続する女性の増加という社会的変化には,職場を最重視する女性の増加ではなく,実家を最重視する女性の割合低下が関連している可能性が示唆された。各生活領域でのアイデンティティに関しては,ライフコースによる大きな差はみられなかった。最後に,ライフコース選択の違いには「家庭」や「職場」におけるアイデンティティがその領域の重要性の程度と関係しながら影響を及ぼしており,生活領域特有の要因を考慮に入れたアイデンティティ研究の重要性が示された。