本研究では,小学校1年のクラスでワーキングメモリの相対的に小さい児童の授業観察を行い,そのような観察対象児の授業中における態度の特徴を調べ,その教育的,発達的意味,および授業参加の支援方法についての考察を行った。小学校1年生2クラスを対象にコンピュータベースのワーキングメモリテストを行い,テスト成績の最下位の児童をそれぞれのクラスで3名ずつ選び,国語と算数の授業37時間で観察を行った。ワーキングメモリの小さい児童の授業態度は,個人によって違いが見られたが,挙手をほとんどしない児童が含まれ,全般に,課題や教材についての教師の説明や,他児の発言を聞くことが容易でないことが示唆された。挙手をほとんどしない観察対象児が挙手する場面を検討したところ,a) 発問の前に児童に考える時間を与えてから発問する,b) 発問をもう一度繰り返す,c)いくつかの具体的な選択肢を教師が提示した上で発問するといった場面で,他の場面よりも挙手率が有意に高かった。ワーキングメモリに発達的な個人差がある中で,ワーキングメモリの相対的に小さい児童にとって授業への参加は不利になること,そのため,教師は,ワーキングメモリの小さい児童を意識した支援方法を意図的に用いる必要があることが考察された。