視覚情報に基づく自己運動の知覚は,乳児の姿勢制御や移動にとって不可欠である。生後1年目の後半において,自己運動と同様の情報を提供する周辺視における光学的流動に対して,乳児はよく反応するようになる。周辺視における光学的流動に対する乳児の反応についての先行研究では,水平方向および下り斜め方向といった動きの方向が異なる光学的流動に対する姿勢補償の比較に限られていた。本研究では,乳児が下り斜め方向の動きの角度の違いによって,異なる姿勢補償および心拍反応を示すかどうかを検討することを目的とした。そこで,生後9ヵ月児27名を対象に,バーチャルムービングルームを用いて,水平方向,下り10°斜め方向,および下り30°斜め方向の動きを特定する光学的流動を提示した。9ヵ月児は,角度に応じた適切な姿勢補償を示すと共に,下り30°斜め方向の動きに対してより心拍数の上昇を示した。これらの結果から,周辺視における光学的流動に対する乳児の反応が,知覚した動きの角度に応じて生じることが示された。