発達心理学研究
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Print ISSN : 0915-9029
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聴覚障害幼児における指文字の読み習得と音韻意識の発達:指文字と平仮名との比較
井口 亜希子田原 敬原島 恒夫
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2021 年 32 巻 3 号 p. 148-159

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抄録

聴覚障害幼児は,音声言語と手指言語の2つの言語環境下にて養育されることが多く,指文字を補助的に使用することにより,音声言語の語彙獲得等を促す効果が期待されている。指文字とは,各文字に対応した手形であり,この手形を連続して表出することで単語を空間上に綴る。本研究では,特別支援学校(聴覚障害)幼稚部に在籍する聴覚障害幼児の指文字の1字読み習得過程について,平仮名1字読みとの比較,また音韻意識の発達との関連性を検討するため,年少・年中・年長児に対して横断的比較および,同一年度内3期にわたる調査から縦断的比較を行った。その結果,聴覚障害幼児の指文字の清音の1字読みは,平仮名と同様に年少時期の後半に読字数が増加し,年中時期におおむね完成することが示された。ただし,年少児群では平仮名が読めるようになる前に指文字の読みが始まる幼児が多く,指文字は発声に併せて口元近くで手形を表出するため,手形―文字音の対応関係の学習が平仮名に比べて容易である可能性が考えられた。また,指文字の読みは,音韻意識課題が可能になる前に始まる幼児が多かったことが,平仮名の読みとは異なる特徴であった。したがって,聴覚障害幼児の中には指文字を通して,文字音の学習が進み,その中で音韻意識の発達が促され,短い音節の単語の分解課題が可能になる時期において,指文字・平仮名ともに1字読みの習得が促進される事例が多く存在すると考えられた。

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© 2021 一般社団法人 日本発達心理学会
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