2023 年 34 巻 2 号 p. 77-86
時間的拡張自己に関わる家庭での会話の内容が,子どもの年齢とともにどのように変化するのかを検討するため,幼稚園児の母親526人を対象に質問紙調査を行った。母親には,時間的拡張自己に関する15種類の内容を提示し,各内容の会話を子どもが家庭でどのくらいの頻度で経験しているのかを評定するよう,求めた。因子分析の結果,会話の内容として,「園や家庭での出来事」「乳児期の自己」「未来の自己」「家族の過去や未来」の4つの因子が抽出された。会話の頻度の分析より,「園や家庭での出来事」と「乳児期の自己」に関しては年少の頃から,「未来の自己」に関しては年中の頃から,「家族の過去・未来」に関しては年長の頃から,一定以上の割合や頻度で会話の中で取り上げられていることが分かった。また,「乳児期の自己」に関する会話は年長児よりも年中児で,「未来の自己」や「園や家庭での出来事」に関する会話は年少児・年中児よりも年長児で,「家族の過去や未来」に関する会話は年少児よりも年長児で,より頻繁に行われていることが明らかになった。以上の結果より,子どもが年少から年長の時期にかけて,家庭での会話の中で取り上げられる内容には時間的な面や人物の面で拡がりがみられるようになり,時間的拡張自己の発達に符合する形で会話の内容が変化することが示唆された。