発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
34 巻, 2 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著
  • 伊藤 恵子, 安田 哲也, 池田 まさみ, 小林 春美, 高田 栄子
    2023 年 34 巻 2 号 p. 45-58
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル 認証あり

    ASD児者13名とTD児者12名を対象に,母子の相互作用場面の映像を用い,ASD特性の連続体上での語用論的情報活用の特徴とその関連要因を検討した。結果,心情推測課題での肯定心情選択数においてASD・TD両群に差は認められず,診断の有無によるカテゴリー的捉え方では,両群の多様性を把握できなかった可能性がある。一方,心情推測の手がかりに着目すると,ASD群の約6割は単一の手がかりのみを使用しており,TD群は1名を除き,複数の手がかりを使用していた。ただし4割弱のASD群も複数の手がかりを使用しており,ASD・TD群の多様性及び方略の違いが明らかとなった。この多様性に着目し,参加者全員を単一・複数手がかり群に分けた。この手がかりパターンは,生活年齢,抽象語理解検査及び表情識別課題の正答率には関連がなかった。一方,心情推測課題での注視点は,単一手がかり群が複数手がかり群よりも,目領域への注視頻度が低かった。AQ総合得点及び下位尺度の社会的スキル,コミュニケーション,想像力の各得点では,単一手がかり群は複数手がかり群に比べ,得点が高かった。以上から,語用論的情報活用でのASD特性との関連が示唆された。日常場面では,話者の心情推測時の手がかりとしての情報の統合がASD特性の程度によって異なることをASD・TD双方が認め合い,個々の特性を長所として活かせるような配慮や支援が欠かせない。

  • 久保 瑶子
    2023 年 34 巻 2 号 p. 59-68
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル 認証あり

    医療現場では,先天性心疾患(以下,CHD)の青年が親に依存する傾向が問題視されてきた。しかし,親に依存しながら自律的に意思決定するCHD青年もいる。そこで本研究では,依存と自律の2側面から,CHD青年の心理的自立の特徴を検討した。CHD青年と一般青年に質問紙調査を行い,依存,自律,心理適応(自尊感情,親を頼った後の感情)を評定させた。さらに,CHD青年には疾患の主観的重症度も評定させた。依存と自律の2側面から心理的自立を類型した結果,主観的重症度が低いCHD青年は,一般青年や主観的重症度が高いCHD青年よりも「依存高自律高型」が多かった。また,重回帰分析の結果,疾患の有無や主観的重症度にかかわらず,依存は親を頼った後の「自己成長感」,「気持ちの安定」,自律は「自尊感情」,親を頼った後の「自己成長感」,「気持ちの安定」,「成長阻害感」と有意に関連した。本研究の結果,CHD青年の自律は一般青年と同程度に発達していた。この知見は,医療者が捉えるCHD青年像とCHD青年の心理的特徴の間にあるギャップの低減に寄与する。今後,医療者は親への依存の有無よりも,青年の自律を重視した自立支援を行うことが重要である。

    【インパクト】

    親への依存傾向が問題視されてきた先天性心疾患(以下,CHD)のある青年の心理的自立の特徴について,親への依存と自律(自己決定)の2側面から検討した。その結果,親に依存しながら自律するCHD青年がいること,また特に自律の側面が心理適応において重要であることを実証した。CHD青年の自立に向けて,医療関係者が一般的に考える課題(依存)以外にも,重要な要因(自律)が存在することを示した。

  • 二村 郁美, 島 義弘
    2023 年 34 巻 2 号 p. 69-76
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,互恵性に従う行動と互恵性に反する行動を幼児がどのように認識しているかを明らかにすることを目的とした。研究参加者は,4–6歳児65名であった。二者間相互作用場面を用いて,「相互作用相手が行為者を助けたか否か」と「行為者が相互作用相手を助けたか否か」の組み合わせによる4条件において,行為者に対する特性評価を求めた。その結果,相互作用相手を助けた行為者への評価については,以前に相互作用相手が行為者を助けていた場合と助けていなかった場合とで差がみられなかった。一方,相互作用相手を助けなかった行為者については,以前に相互作用相手が行為者を助けていた場合に,助けていなかった場合よりも低く評価された。本研究の結果,幼児が援助行動の不実行について評価する際には,相互作用相手の行動についての文脈情報を利用して互恵性に基づく判断を行うことが明らかになった。また,互恵性について一定の理解を持っている幼児であっても,場面に応じて,互恵性を利用した判断をする場合とそうでない場合があることが示唆された。

    【インパクト】

    互恵性は社会の協力システムの維持・促進に関わるメカニズムであり,その発達は進化的にも重要なテーマとして着目されている。先行研究では,幼児期における互恵性の理解について,矛盾して見える知見が提出されていた。本研究では,これらの知見を統合的に解釈可能な枠組みを提案し,幼児による互恵性の理解の様相を明らかにした。

  • 坂上 裕子
    2023 年 34 巻 2 号 p. 77-86
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル 認証あり

    時間的拡張自己に関わる家庭での会話の内容が,子どもの年齢とともにどのように変化するのかを検討するため,幼稚園児の母親526人を対象に質問紙調査を行った。母親には,時間的拡張自己に関する15種類の内容を提示し,各内容の会話を子どもが家庭でどのくらいの頻度で経験しているのかを評定するよう,求めた。因子分析の結果,会話の内容として,「園や家庭での出来事」「乳児期の自己」「未来の自己」「家族の過去や未来」の4つの因子が抽出された。会話の頻度の分析より,「園や家庭での出来事」と「乳児期の自己」に関しては年少の頃から,「未来の自己」に関しては年中の頃から,「家族の過去・未来」に関しては年長の頃から,一定以上の割合や頻度で会話の中で取り上げられていることが分かった。また,「乳児期の自己」に関する会話は年長児よりも年中児で,「未来の自己」や「園や家庭での出来事」に関する会話は年少児・年中児よりも年長児で,「家族の過去や未来」に関する会話は年少児よりも年長児で,より頻繁に行われていることが明らかになった。以上の結果より,子どもが年少から年長の時期にかけて,家庭での会話の中で取り上げられる内容には時間的な面や人物の面で拡がりがみられるようになり,時間的拡張自己の発達に符合する形で会話の内容が変化することが示唆された。

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