発達心理学研究
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実践(公募)
ASD児の対人的葛藤場面における対処方略の獲得過程:「課題解決」スクリプトとコミック会話を組み合わせた支援を通して
山寺 葵葉吉井 勘人
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2023 年 34 巻 3 号 p. 183-193

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抄録

本研究ではスクリプトとコミック会話を組み合わせて支援し,小学校に在籍するASD児(以下,本児)が対人的葛藤場面で他者の心的状態を想定して対処方略を考え言語化して表現できるようになるのかを検討した。「課題解決」スクリプトは,演者2人が学校生活で予測される二者間(例:加害児と被害児)の対人的葛藤場面の劇を演じる。それに対し本児が二者の心的状態と対人的葛藤の課題の解決方法を考え言語化して表現する。本児の考えた解決方法を演者が実演し,本児はそれを見るといった一連の行動系列である。支援期では二者の心的状態を想定するための視覚援助としてコミック会話を用いた。その結果,主に加害児役の心的状態への言及が増加した。また,課題解決のための対処方略数が増加した。対処方略の種類では,他者の心的状態を考慮した,「受容的」と「互恵的」の対処方略が増加し,「一方向的」が減少した。さらに本児の参加する遊び場面で実際に対人的葛藤の課題が発生する般化測定では,「受容的」と「互恵的」な対処方略を使用することが確認された。学校生活では(支援期後半),下校時に本児が仲間から嫌な話を聞かされた際に,話を逸らす互恵的な対処方略をとったことが確認された。これらの達成要因の一つとして,スクリプトとコミック会話が効果的な影響を与えたと考えられる。

【インパクト】

本研究は,ASD児に対して対人的葛藤場面での対処法略の獲得を促すことを目的として,スクリプト支援にコミック会話を組み合わせた初めての支援実践である。支援の効果として,他者の心的状態を想定した上での対処方略数と対処方略の種類の増加が認められた。本支援方法は,高度な専門的知識やスキルを有していなくても実施可能であるため,療育機関や学校などの様々な支援現場で活用できる可能性がある。

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© 2023 一般社団法人 日本発達心理学会
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