発達心理学研究
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34 巻, 3 号
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特集序文
特集
実践(依頼)
  • 前川 圭一郎, 荻野 昌秀, 田中 善大
    2023 年 34 巻 3 号 p. 105-118
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/13
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,中学校において学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)の第1層支援に加えて,データに基づく学年規模ポジティブ行動支援(GWPBS)を1年生に対して実施し,その効果を検討した。GWPBSを効果的に実施するために,米国の管理職への規律指導に関する照会(Office Discipline Referral: ODR)を基にした生徒指導記録の件数のデータを用いて支援に関する意思決定を行った。GWPBSとしてキャンペーン形式の第1層支援に加えて第2層支援を実施した。GWPBSの効果を検討するために,生徒指導記録件数の測定に加えて,生徒の適応・不適応に関する質問紙尺度を実施した。GWPBSを実施した結果,対象学年(1年生)の生徒指導記録件数が減少し,特にSWPBSのみでは十分な減少が見られなかった標的行動に十分な減少が見られた。質問紙尺度については,GWPBSの対象学年において,他の学年では見られなかった不適応の指標の改善が確認された。結果から,本研究で実施したデータに基づくGWPBSが,対象学年の生徒の不適切な行動の減少と,それに伴う主観的な不適応の改善に効果があったことが示された。

    【インパクト】

    本研究は,米国の学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)で標準的に実施されているデータに基づく意思決定を含む形での学年規模ポジティブ行動支援(GWPBS)の実践を日本の学校において実施し,その効果を検証したものである。日本の学校におけるデータに基づくGWPBSに関する実践研究は,これまでに例のないものであり,本研究の結果は,今後日本におけるSWPBSの普及,発展にとって重要なものである。

  • 野々宮 京子, 村山 恭朗
    2023 年 34 巻 3 号 p. 119-130
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/13
    ジャーナル 認証あり

    児童虐待など,養育の問題が注目されている。不適切な養育は子どもの心理社会不適応と関連するため,不適切な養育の抑止および適切な養育の促進は重要な課題である。さらに,児童福祉法では,各自治体や児童発達支援機関等における養育支援が求められており,地域社会において養育支援を充実させる意義は高い。一方で,国内にはエビデンスが確立している養育支援プログラムはあるが,地域社会の養育支援者が実施した当該プログラムの効果検証はあまり報告されていない。そこで,本研究は地域で養育支援に携わる保育士/保健師が実施した養育支援プログラム(ペアレント・プログラム)の効果の検証を行った。2つの自治体で実施された同プログラムに参加した母親12名(35.92±3.55歳)を調査対象とした。プログラム前後での母親のメンタルヘルス,養育行動,および実子の行動の評価を比較したところ,いずれも肯定的な変化を示した。具体的には,メンタルヘルスは高い効果量(η2p=0.30),肯定的養育は中程度以上(g=0.55),否定的養育(g=0.49)と実子の「困難さ」(g=0.45)は中程度弱の効果量を示した。これらは,高度な専門的知識等を持つ専門家が同プログラムを実施した先行知見と類似することから,高度な専門的知識等を持たない地域の養育支援者が実施する場合でも,同プログラムは養育支援として有効であることが示唆される。

    【インパクト】

    本研究では,臨床心理学や特別支援教育学など,高度な専門的知識/技能を有さない保健師や保育士によって実施されたペアレント・プログラムであっても,専門家が実施したプログラムと同程度の効果を示すことが明らかとなった。この結果から,高度な専門的知識/技能を有する養育支援者がいない自治体/機関であっても,ペアレント・プログラムを活用することで,効果的な養育支援を地域で展開できることが示唆される。

  • 前川 麻依子, 片桐 正敏
    2023 年 34 巻 3 号 p. 131-144
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/13
    ジャーナル 認証あり

    聴覚障害幼児への発達支援では,手話や残存聴力を用いた早期からの言語支援のみならず,相互交渉を豊かにする関係発達支援が重要である。しかし多くの場合,十分な相互交渉の機会が得られにくく,言語コミュニケーションスキルの発達に大きな影響を及ぼす。本研究では,特別支援学校(聾学校)幼稚部に通う幼児1名と指導教員である第1著者との関係初期における相互交渉の様子を8か月に渡って記録した。相互交渉維持のために幼児からの応答をどう引き出すかについて,発話内容と非言語的サインに着目し,必要に応じて数値化して分析した。その結果,関係初期の頃にAから応答が得られた発話は模倣の促しや受け止めが多かった。それ以降は指導教員との間主観的な関わりによる関係発達や非言語的サインによる応答の合図や発話意図の理解の促しなどによって,質問などの発話に対してもAからの応答が増え,相互交渉に発展が見られた。聴覚障害幼児との関係初期において,間主観的な関わりによる二者の関係発達が相互交渉の発達プロセスに影響を及ぼし,その過程で「特定の身近な他者」となった大人による子どもの発達しつつある水準に沿った相互交渉の可能性があることを示した。

    【インパクト】

    本研究は,聴覚障害幼児に対して手話や残存聴力を用いた早期からの言語支援に加え,相互交渉を豊かにする関係発達支援について,幼児の応答を引き出す関わりについて検討したものである。関わり手の発話内容と非言語的サインに着目し,幼児の応答タイプを分析することで,効果的な関わり方を検討した研究は,本邦でも極めて報告が少ない。加えて,質的な分析も加えることで,関係発達支援に必要な支援者の関わりについて示唆を与えるものである。聴覚障害幼児との関係初期において,間主観的な関わりによる二者の関係発達が相互交渉の発達プロセス影響について示した本論は極めて稀少な研究と言える。

  • 砂川 芽吹, 山田 美穂
    2023 年 34 巻 3 号 p. 145-158
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/13
    ジャーナル 認証あり

    自閉スペクトラム(Autism Spectrum: AS)のある女の子は,特に思春期に関係性の難しさに加えて,「からだ」に関して特有の困難や不自由さを経験する。本実践論文の目的は,思春期のASのある女の子を対象とした親子支援プログラム「あまなつ茶ぁむ」の初年度(2021年度)の試行実践1事例について,特に「身体の内部の感覚や感情への気づきと表現」および「対人関係やコミュニケーションの理解」において参加者が示した困難とそれに対するサポートを検討し,今後の実践へのヒントを得ることである。小学校2年生のASのある女の子とその母親に対して,全4回のオンライン個別セッションを実施した。各セッションの開始前後に,身体の内部の状態について,描画およびチェックリストによって評価した。またセッション中の発言について,その内容を分析した。実践を通して,参加者は身体の内部の感覚や感情を正確に気づいて表現することの難しさがあると考えられた。また,参加者の状況への対処方法の特徴が示された。あまなつ茶ぁむの特長である,「こころ」と「からだ」の両側面への心理教育的なアプローチや,スタッフと参加者の双方向のコミュニケーションによる体験の共有が,本実践の目的にどの程度合致していたのか,また今後の実践計画にどのように活用できるかという点について考察した。

    【インパクト】

    ASのある女の子は,特に思春期以降,対人関係だけではなく広く「からだ」に関する特有の困難を経験することが示されている。しかしながら,ASのある子どもを対象とした支援や情報は男の子を中心としており,女の子特有のテーマが扱われることが少ない。本実践論文では,ASのある思春期以前の女の子を対象とし,こころとからだの両方の側面からアプローチを行い,今後の実践への示唆を得た。

  • 鈴木 則夫
    2023 年 34 巻 3 号 p. 159-167
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/13
    ジャーナル 認証あり

    認知症疾患診断のための心理学的評価としてMini-Mental State Examination(MMSE)の重なった五角形模写課題に焦点をあてた。レビー小体病(DLB)において疾患の進行に伴い,図形を極端に小さく描く症例を供覧し,アルツハイマー病(AD)21例とDLB 22例にCaffarra et al.(2013)のQualitative scoring MMSE pentagon test(QSPT)と模写図形の面積測定を行った。結果,DLB群はAD群に比べて角の数や重なり方といった基本的なゲシュタルトの誤りが有意に多く,模写図形を有意に小さく描く傾向が認められた。基本的なゲシュタルトを誤ることは視覚性注意や視覚認知と,模写図形を小さく描く傾向はパーキンソン症候群に多くみられる小字症(micro graphia)と関連する可能性が示唆された。

    【インパクト】

    本研究は高齢期という発達段階にかかわる心理職の業務として最も頻度の高い認知症のアセスメントにおいて,認知症スクリーニング検査結果解釈に焦点を当てた。認知症疾患診断において重要な指標となる視覚構成能力を測る図形模写において,DLBをADと比較した場合の特徴を明らかにし,疾患診断に役立つ知見を得た。

実践(公募)
  • 青木 雄一, 吉井 勘人
    2023 年 34 巻 3 号 p. 168-182
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/13
    ジャーナル 認証あり

    特別支援学校に在籍する精神年齢3歳台の意図理解が成立している自閉スペクトラム症(ASD)児1名を対象として,共同行為ルーティンの支援を介して意図理解から意図共有の段階へと発達するか,その発達可能性を検討した。意図共有を【協同活動】,【役割反転模倣】,【三項関係への能動的参加】の3つから成る機能であると定義し,その内の【協同活動】と【三項関係への能動的参加】の向上を目的として,それぞれ共同行為ルーティン(テーブルクロスかけ,帰りの会)による支援を行った。また,支援の効果を評価するために支援開始前及び終了後に初期社会的認知のアセスメントを行った。その結果,【協同活動】に関しては,対象児AはASDの仲間Bと目標とプランを共有して,テーブルクロスを一緒にかける行為が可能となり,場面般化も確認された。【三項関係への能動的参加】については,帰りの会の場面において,<社会的相互作用の始発>と<叙述の表出>の発話数が増加し,事後評価では<社会的相互作用の始発>の場面般化が認められた。支援終了後のアセスメントでは,直接支援していない【役割反転模倣】の課題を達成した。加えて,課題の中で,テスターの顔の参照が生起するようになった。以上から,ASD児における意図理解から意図共有の芽生えへと至るプロセスが見いだされた。その要因として<目標とプランの共有>,ルーティンの役割を中心に考察した。

    【インパクト】

    本研究は,実験室の指導でなく特別支援学校の生活文脈の中で,複数場面において共同行為ルーティンによる支援を行い,ASD児の意図共有の発達を検討した初めての試みである。意図共有の発達は,支援実施前後における半構造化場面での評価と,日常生活でのエピソード記録による多角的な評価を行った。その結果,意図共有の芽生えへと至る発達プロセスが見出され,ASD児の生活文脈での共同行為ルーティンの意義を考察した。

  • 山寺 葵葉, 吉井 勘人
    2023 年 34 巻 3 号 p. 183-193
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/13
    ジャーナル 認証あり

    本研究ではスクリプトとコミック会話を組み合わせて支援し,小学校に在籍するASD児(以下,本児)が対人的葛藤場面で他者の心的状態を想定して対処方略を考え言語化して表現できるようになるのかを検討した。「課題解決」スクリプトは,演者2人が学校生活で予測される二者間(例:加害児と被害児)の対人的葛藤場面の劇を演じる。それに対し本児が二者の心的状態と対人的葛藤の課題の解決方法を考え言語化して表現する。本児の考えた解決方法を演者が実演し,本児はそれを見るといった一連の行動系列である。支援期では二者の心的状態を想定するための視覚援助としてコミック会話を用いた。その結果,主に加害児役の心的状態への言及が増加した。また,課題解決のための対処方略数が増加した。対処方略の種類では,他者の心的状態を考慮した,「受容的」と「互恵的」の対処方略が増加し,「一方向的」が減少した。さらに本児の参加する遊び場面で実際に対人的葛藤の課題が発生する般化測定では,「受容的」と「互恵的」な対処方略を使用することが確認された。学校生活では(支援期後半),下校時に本児が仲間から嫌な話を聞かされた際に,話を逸らす互恵的な対処方略をとったことが確認された。これらの達成要因の一つとして,スクリプトとコミック会話が効果的な影響を与えたと考えられる。

    【インパクト】

    本研究は,ASD児に対して対人的葛藤場面での対処法略の獲得を促すことを目的として,スクリプト支援にコミック会話を組み合わせた初めての支援実践である。支援の効果として,他者の心的状態を想定した上での対処方略数と対処方略の種類の増加が認められた。本支援方法は,高度な専門的知識やスキルを有していなくても実施可能であるため,療育機関や学校などの様々な支援現場で活用できる可能性がある。

  • 野上 慶子, 谷口 あや, 山根 隆宏
    2023 年 34 巻 3 号 p. 194-207
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/13
    ジャーナル 認証あり

    近年の国外の研究では,発達障害児の不安症状に対する家族認知行動療法(FCBT)の有効性を検討するにあたり,子どもの不安症状と親の不安症状との関連が注目されている。本研究では,混合研究法により質的および量的なデータを統合し,介入前の母親の不安症状の程度がFCBTの有効性に及ぼす影響と,介入による個々の参加者の気付きや状態・行動の変化について検討した。子どもの不安症状軽減のためのFCBTプログラムに参加した6~12歳の発達障害児をもつ母親を,不安低群(n=19)と不安高群(n=5)に二分し群間の相違を検討した。量的分析では,プログラムの取り組み方や,養育態度,養育ストレス,子どもの不安症状における介入の有効性等で有意な群間差はなかったが,親の不安症状の変化で相違がみられた。一方,質的分析により,介入期間中の気付きや行動,状態の変化の側面で両群間の相違が示された。また量的と質的な分析結果を統合し,介入前の不安症状の程度による介入中の経験の相違を詳細に示した。最後に,介入前の母親の不安症状の程度に応じた,発達障害児の不安症状への介入方法が考察された。

    【インパクト】

    発達障害児の不安症状への介入時に,母親の不安症状にも直接的な介入が加えられた結果,介入前の不安症状が高い母親でもプログラムの取り組みが進んだため,両群において,親自身や子どもに対する介入の効果が得られた。また,混合研究法を用い,質的および量的データを統合したことで,発達障害児の不安症状への介入方法における母親の不安の程度に応じた実践方法が示唆された。

原著
  • 直原 康光, 登藤 直弥, 荒牧 美佐子, 塩﨑 尚美, 久保 尊洋, 安藤 智子
    2023 年 34 巻 3 号 p. 208-218
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/13
    ジャーナル 認証あり

    本研究の目的は,幼児期後期(3歳)から児童期後期(10歳)にかけて,子どもの外在化問題,内在化問題,向社会的行動の間にどのような経時的相互関係が認められるかを発達カスケードの枠組みに基づき,検討を行うことであった。妊娠期から10年間継続している縦断調査において,子どもが3歳–10歳時の8年間に調査協力が得られた母親210名が回答した子どもの行動評価を用いて,交差遅延効果モデルによる分析を行った。その結果,母親の抑うつを統制しても,すべての時点の外在化問題が向社会的行動に負の効果を及ぼしていた。また,7歳の外在化問題は,8歳の内在化問題に正の効果を及ぼし,9歳の向社会的行動は,10歳の外在化問題に負の効果を及ぼしていた。以上の結果は,発達カスケードを裏付けるものであるとともに,幼児期から児童期においては年齢を問わず外在化問題に介入することが重要であることや,児童期前期の子どもの外在化問題や向社会的行動への介入がその後の子どもの行動上の問題を抑制する上で重要であることが示唆された。

    【インパクト】

    本研究は,発達精神病理学の領域で実証研究が積み重ねられている発達カスケードの枠組みに基づき,8年間の縦断調査の結果を交差遅延効果モデルを用いて,子どもの行動の経時的相互関係の検討を行った日本で初めての試みである。全時点で外在化問題が向社会的行動を低下させることや,児童期前期から後期にかけて外在化問題→内在化問題→向社会的行動→外在化問題と子どもの行動上の問題同士が関連している可能性が示唆された。

  • 山村 麻予, 中谷 素之
    2023 年 34 巻 3 号 p. 219-229
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/13
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,これまで向社会的行動の研究で取り上げられづらかった「様子を見守る」「待つ」といった能動的ではない行動を「非表出的向社会的行動」として取り上げ,その認知について,児童を対象に検討したものである。具体的には,同一場面において生起する向社会的行動のうち,表出的行動と非表出的行動に対する評価が,発達的にどのように異なるかを質問紙調査にて検討した。予備調査から抽出された4場面を用い,小学校4年生と6年生を対象に,提示された行動が向社会的であるかの判断を調査した。その結果,向社会的行動であるかの評価には学年差は検出されず,表出的な行動が非表出的な行動に比べて向社会的だと評価された。児童期を通し,直接的な援助行動が生起している場合がより向社会的であると判断されることが明らかになった。さらに,学年と行動種別の交互作用が有意となり,非表出的行動に対する向社会的評価は,小学校6年生が4年生よりも高かった。これにより,行動が顕在的でない場合に,その向社会的意図を認知する能力に発達差がみられることが明らかとなった。

報告
  • 大久保 圭介, 遠藤 利彦, 野澤 祥子
    2023 年 34 巻 3 号 p. 230-243
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/13
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,子どもが0歳から3歳までの各時点のテレビ・DVDおよびスマートフォンの使用時間と,子どもが4歳時点の就寝時刻,起床時刻,SDQ指標の縦断的な関連を検討した。5時点で得られた合計1678名の母親データ(平均年齢=37.11)を分析に使用し,各時点の使用時間カテゴリーとの関連,連続変数と見做した際の偏相関,4時点の変化軌跡クラスとの関連を検討した。基本的に,有意な関連が見られた点は,全て使用時間が長いほど,遅い就寝時刻と起床時刻,ネガティブなSDQ得点と関連していた。本研究の特徴的な結果の1つは,4歳時点の睡眠指標に対して,0,1歳時点のテレビ・DVDではなく,スマートフォン使用時間の影響が見られた点である。この結果は,子どもへの影響という点について,テレビ・DVDとスマートフォンの違いを示唆する。SDQに関して,向社会的行動得点意外の4つの下位尺度は,テレビ・DVDとスマートフォンの使用時間となんらかの関連を示した。本研究は,デジタルメディアの使用が日本の乳幼児期の子どもに与える影響に関する萌芽的な研究であり,実践的・政策的に重要な知見を提供した。

    【インパクト】

    本研究では,5時点の縦断データを用いて,0歳から3歳までの各年齢におけるデジタルメディアの使用時間が,子どもの睡眠時間や情緒,行動的な問題への影響を示した点において,極めて高い実践的・政策的な価値を有すると考えられる。デジタルメディアの使用が低年齢化している現在において,本研究は,日本の乳幼児期の子どものデジタルメディアの使用時間に関する有用な知見を提供することができた。

  • 山崎 奈津江
    2023 年 34 巻 3 号 p. 244-254
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/13
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,明確な診断はされていないが娘に発達特性を感じながら子育てをしている母親の心情について,同性である母と娘との関係に着目しながら明らかにすることを目的とした。小学1年生の娘に発達特性を感じている母親を対象に半構造化インタビュー調査を実施し,関与・観察的に行った語りを基に分析した。その結果,発達特性の視点からの子育てにおける心情として,発達特性がある娘を育てにくいと思わず,娘の行動に合わせることが「めんどくさかった」とする,【自分軸の視点】が見出された。そして,娘の発達特性の理解が進むことで母親は,これまで自分が見てきた娘とは違う視点で娘を見ることができるようになっていった。母娘の同性の視点からの心情として,自分が経験してきた女子同士の関わりの難しさや面倒くささがフィルターとなり,【特性がありつつ女子】【特性プラス女子】な発達特性のある娘に対して,女子の複雑な友達関係を前に,ソーシャルスキルを事前に身に着けておくための先手を打つ支援を行っていた。さらに,娘と自分とを同一視していた視点から客観視できるようになった母親は,これまで自分と一体化していた娘が母親からはがれだし,「個」として立体的に娘が浮かび上がることで,母親と娘が相互主体的になっていくという関係性の変化が見てとれた。

    【インパクト】

    本研究はこれまで十分に検討されてこなかった発達特性がある女児の母親の心情を見出し,母親が自己理解していく認識の変化を明らかにした。具体的には娘の育てにくさを自分軸と捉えていたこと,ソーシャル・サポートに対する落胆から安心感への変化,娘の特性の理解に伴い相互主体的に変化していく母親と娘との関係性の変容である。ここから,娘に発達特性を感じながら育てている母親のソーシャル・サポートニーズが示唆された。

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