聴覚障害幼児への発達支援では,手話や残存聴力を用いた早期からの言語支援のみならず,相互交渉を豊かにする関係発達支援が重要である。しかし多くの場合,十分な相互交渉の機会が得られにくく,言語コミュニケーションスキルの発達に大きな影響を及ぼす。本研究では,特別支援学校(聾学校)幼稚部に通う幼児1名と指導教員である第1著者との関係初期における相互交渉の様子を8か月に渡って記録した。相互交渉維持のために幼児からの応答をどう引き出すかについて,発話内容と非言語的サインに着目し,必要に応じて数値化して分析した。その結果,関係初期の頃にAから応答が得られた発話は模倣の促しや受け止めが多かった。それ以降は指導教員との間主観的な関わりによる関係発達や非言語的サインによる応答の合図や発話意図の理解の促しなどによって,質問などの発話に対してもAからの応答が増え,相互交渉に発展が見られた。聴覚障害幼児との関係初期において,間主観的な関わりによる二者の関係発達が相互交渉の発達プロセスに影響を及ぼし,その過程で「特定の身近な他者」となった大人による子どもの発達しつつある水準に沿った相互交渉の可能性があることを示した。
【インパクト】
本研究は,聴覚障害幼児に対して手話や残存聴力を用いた早期からの言語支援に加え,相互交渉を豊かにする関係発達支援について,幼児の応答を引き出す関わりについて検討したものである。関わり手の発話内容と非言語的サインに着目し,幼児の応答タイプを分析することで,効果的な関わり方を検討した研究は,本邦でも極めて報告が少ない。加えて,質的な分析も加えることで,関係発達支援に必要な支援者の関わりについて示唆を与えるものである。聴覚障害幼児との関係初期において,間主観的な関わりによる二者の関係発達が相互交渉の発達プロセス影響について示した本論は極めて稀少な研究と言える。
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