2023 年 34 巻 4 号 p. 298-311
幼小接続においては,幼児期の育ちを活かした連続性のある学習を展開していく重要性が提起され,さまざまな実践が提案されてきた。一方で,幼小移行期は,子どもにとっては大きな学習の転換の起こる時期でもある。小学校入学前後の実践例の蓄積に留まらず,子どもの学習プロセスでどのようなことが起こっていくのかを検討することが必要である。そこで本研究では,学習の転換には,身体的空間,言語・文字的空間,記号・数式的空間での相互作用が関わると考え,教室の物や人との相互関係の中でどのようなやり取りが起こり,エージェンシーがあらわれていくのかを検討した。小学1年生の1学級において12か月間のフィールドワークを行い,物と人の相互関係を質的に分析した。その結果,1)身体的空間でのやり取りが言語・文字的空間でのやり取りへ転換されていくプロセス,2)身体的空間と行き来しながら言語・文字的空間でのやり取りがなされていくプロセス,3)言語・文字的空間や身体的空間と行き来しながら記号・数式的空間でやり取りがなされていくプロセスが見られた。子どもたちは,身体的空間,言語・文字的空間,記号・数式的空間を行き来しながら,脱文脈化した論理的抽象的な思考に向かっていくことが示唆された。これらのエージェンシーがあらわれていく過程では,さまざまな物や人のエージェンシーや場の構造が相互に関わり合っていた。