2025 年 36 巻 3 号 p. 157-167
本研究では,教室における教師の指示に対して,ASD児が即時性エコラリアで応じた場合に,教師がどのように対応するのかを明らかにした。中学校特別支援学級の職業・家庭科の授業を観察し,知的な遅れのあるASD児1名と教師1名の相互行為をビデオカメラで記録し,発話のみならず視線や身体動作にも着目したディスコース分析を行った。その結果,(1)教師が特定の発話を求め,見本を示す場合,これを繰り返すこと自体が指示の実行となり,教師は会話相手の反応を待つ,応答するといった対応を行うこと,(2)教師が特定の行動を求める場合,行動の完了とともに産出されるエコラリアは,指示の実行を報告し,教師は肯定的な評価を与えたり,活動を進行させたりすること,(3)これらのいずれでも無い場合,エコラリアは少なくとも指示の受け止めを示し,教師は待機したり,反応を促したりすること,(4)ただし行動が停滞している場合には,教師はエコラリアを助けを求めるものとして取り扱い,即座に手がかりを与えること,が示された。つまり教師にとってエコラリアは,単なる誤答や不適切な発話ではなく,相互行為を進行させるための手がかりの一つであった。
【インパクト】
教師が指示を行い,ASD児が即時性エコラリアで応じた場合の,教師の対応を明らかにした。教師はエコラリアを単なる誤答や不適切な発話としてではなく,指示の実行や報告,受け止め,助けを求めるものとして取り扱い,対応を変化させていた。先行研究でも,エコラリアには様々な意味な意味があることが指摘されていたが,本研究では,これらの意味に教師自身が志向して,相互行為を進行させていることが明らかにされた。