抄録
日常的に観察できる発話にともなって表出する手振りの現れに視覚的な他者の見えがどのように影響するのかについて検討した。観察対象は, 開眼大学生, 目隠し大学生, 中途失明成人, 早期に失明した成人の各6名であった。彼らに「問題解決」, 「概念の説明」など10課題を口頭で提示し, それに解答する過程をビデオで記録し分析した。手振りの発話に対する出現率は開眼大学生, 目隠し大学生, 中途失明の順に高かった。また早期失明者にはこの種の手振りがほとんど観察できなかった。手振りの観察された3群では, 個々の手振りを発話と意味的, 時間的に関連させる分類が行われた。発話の品詞が動詞の時には手振りが発話に先行するケースが比較的多かった。出現率の結果は文が内的に生成される認知的過程だけにこの種の手振りの起源をもとめる「表出説」に矛盾するものであった。最後に発話にともなう手振りにおよぼす他者との視覚的なコミュニケーションの役割がMead, G.H.の「有意味シンボル論」などとの関連で議論された。