発達心理学研究
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幼児の向社会的行動における他者の感情解釈の役割
伊藤 順子
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1997 年 8 巻 2 号 p. 111-120

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抄録

本研究では, 幼児の向社会的行動に他者の感情解釈がどのような影響を及ぼしているかを検討した。実験1では, 向社会的場面として, 他者の状況と表情が一致した場面(悲しい状況での悲しい顔)と矛盾した場面を設定した。さらに, 矛盾した場面としては, 悲しい状況でほほえんでいる主人公(表情の偽り)と, 嬉しい状況で悲しい顔をしている主人公(個人特性)を設定した。49名の4歳児と46名の5歳児を3つのグループに分け, それぞれの物語を提示し, 役割取得能力(感情の推測)と向社会的判断・行動についての評価を行った。その結果, 手がかりを統合し, 適切な感情(悲しい感情)の推測がなされたとき, 向社会的判断がなされることが多かった。さらに, 向社会的判断を行わなかった被験者でも, 感情解釈情報を提示後に向社会的判断への変化が見られた。実験2では, 53名の4歳児と51名の5歳児をあらかじめ感情解釈情報提示あり・なしの2つのグループに分け, 「個人的好み」に関する矛盾した物語を提示し, 向社会的判断・行動の機会を与えた。その結果, 感情解釈情報の提示を受けた被験者は, 提示を受けない被験者より向社会的判断・行動を多く行った。これらの結果から, 他者の困窮を示す手がかりが矛盾した場面においては, 表情の偽りや個人的好みを考慮に入れた感情統合によって, 適切な感情を推測することが向社会的判断・行動につながることが示唆された。

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© 1997 一般社団法人 日本発達心理学会
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