論文ID: 34.401
本研究では,1歳児クラスで生じたいざこざの出来事について,子どもたちと保育者の行為がニュー・マテリアリズムの視点からどのように捉えられるのかを明らかにする。認定こども園における参与観察のビデオデータに記録されたひとつの出来事について,Lenz Taguchi(2010)の「内的活動の教育学」を理論的枠組みとして微視的に分析した。その結果,子ども同士の叫び合いの状況が,以下のように見えてきた。子どもたちは,それぞれ物と一緒に生成変化する(becoming-with)状態にあり,場に表出された不快感は子ども個人から出てきたものではなく,玩具や「ばっぱー!」という音などとの絡み合いにて生じたものとして捉えられた。保育者の行為と発話は,身体的な働きかけや周りの状況の変化を巧みに使いながら,子どもを取り巻くアレンジメントを組み替えていると考えられた。保育者は,子どものことを援助が必要な未熟な存在としてではなく,ポジティブな差異を生み出す存在として見ていることが示唆された。