抄録
本研究は,中心視の選択的な制限が階段下降における歩行速度に与える影響を検証しようとするものである.視野の任意の部分を遮蔽できる実験装置を開発し,この実験装置を用いて被験者の中心視を制限し,階段下降実験を実施した.実験結果より以下のことが明らかになった.平坦な廊下が前後に接続する階段の,下りはじめの2段とその手前の1 mの平坦な廊下を含む「階段下りはじめ」のエリアにおいて,中心視を選択的に制限した条件における歩行速度が,中心視を制限しない他の視野条件における歩行速度に比べて,有意に遅くなっていた.すなわち,この「階段下りはじめ」のエリアを速やかに歩行するためには,中心視による視覚情報の獲得が機能していなければならないことが示された.