日本の小中学校の保健室には,怪我をしたり病気になったりした児童生徒に対して一次的な医療処置をおこなうという一義的な機能の他に,学校に通学している児童生徒,学校に通学することが困難になった児童生徒の居場所としての機能を果たしている.本稿は地方地域の小中学校4校の養護教諭におこなったインタビューの結果に基づき,保健室の持つ児童生徒の居場所としての機能,養護教諭に求められている児童生徒の心のケアにおける役割に光を当て,そのような役割を念頭に「学校の保健室」をどのように再設計しうるかという問題を提起することを目的としている.インタビューの結果,学校の保健室は学校に通学している児童生徒,学校に通学することが困難になった児童生徒両方を含めて,家が第1の居場所,学校が第2の居場所であるとすると家でも学校でもない第3の居場所としての役割を担っていると考えられることがわかった.そして養護教諭は親でもない,教諭でもない,話し手を評価せず話を安心して受け入れてくれる存在として児童生徒に慕われる実態が明らかになった.本稿では地方地域の中小規模校での調査に基づいて学校の保健室を捉え直しリデザインする可能性について考察し,今後検討すべき課題をまとめた.
本研究では,視覚障害者のリスクテイキング傾向の特性を検討することを目的とした.全盲者とロービジョン者235名を対象にヒアリング調査を実施し,30種類の「リスクをともなう行動」に対する敢行確率と危険度の評定データを収集した.比較のため,視覚に障害のない者326名の評定データも収集した.両者のリスクテイキング傾向を比較したところ,視覚障害者は視覚に障害のない者より危険度を高く評価する一方,敢行確率では視覚に障害のない者と大きな違いは見られなかった.また,視覚障害者の様々な個人属性とリスクテイキング傾向との関連を分析したところ,視覚障害者にも視覚に障害のない者にも共通する一般的な行動項目の方が,視覚障害者に特有の行動項目より,複数項目を通してリスクテイキング傾向が安定していた.視覚障害者に特有の行動項目においては,性別や年齢などの基本的な個人属性に加え,視力の程度や白杖使用の頻度などの個人特性,さらには本研究で扱っていないその他の要因が複雑に影響しているためと考えられる.
本研究の目的は,頭部映像から得られる指標として頭部位置・角度,Action Units(AU),視線に着目し,VDT作業による疲労および休憩による疲労回復を検出する有効な指標を明らかにすることである.14名の学生に,疲労に関する主観評価を挟みながらVDT作業として暗算課題を実施し,暗算課題中の頭部映像から顔分析ツールOpenFaceを用いて指標を取得した.本番作業始めの6分間と本番作業最後の6分間,本番作業最後の6分と休憩後の追加作業6分の間において,頭部映像から得られる指標の平均値および時系列変化量(時変量)の変化を統計的に分析した.主観評価の結果から,VDT作業による疲労感蓄積および休憩による疲労感回復が確認された.頭部映像から得られる指標の結果から,頭部位置・角度の時変量,AUの平均値,視線逸脱という観点を含めた視線の時変量がVDT作業による疲労感蓄積および疲労感回復を検出する有効な指標である可能性が示唆された.
自動車の運転支援システムにおいては,システムの受容性の向上および適切な活用のために,個人の特性を考慮した個人適応型の運転支援システムが検討されている.運転支援システムの個人適応に関する既存手法においては,適応のために対象となる個人の走行データの取得と学習が必要である.そこで,本研究では,走行データを用いない運転支援システムの個人適応をねらいとして,ドライバの性格特性に基づく安全マージンの予測を試みた.ドライビングシミュレータを用いた実験により,進路変更時の走行データを取得し,各ドライバが許容可能なリスク水準を反映した指標を算出した.算出した指標を目的変数,性格特性の指標を特徴量とし,部分最小二乗回帰モデルにより予測モデルを構築した.構築したモデルは対象とする個人のデータを学習しない場合にも精度が高く,既存手法では適応が困難なシステムの導入段階における個人適応に有効であることが示唆された.
握力測定器を用いずに,質問項目のみから握力を推定する方法を開発した.最初に握力計を用いて実際の握力を測定し,その後,手指の力に関する質問紙調査を実施した.調査では,まず4種類のペットボトル開栓方法を提示し,日常生活で最もよく用いる方法と,それぞれの開栓動作に対する難易度評価を求めた.さらに,約1 kg,2 kg,5 kgの物の持ち上げ,缶ジュースのプルタブの引き上げの難易度についても評価を求めた.質問項目を説明変数,握力の実測値を目的変数として重回帰分析および機械学習による分析を行い,握力の推定モデルを構築した.汎化性能評価の結果,握力の推定値は実測値と高い相関(最大r=.831)を示したが,一部の握力範囲では乖離も確認された.この簡易推定モデルは,握力計の使用が困難な状況において握力を推定する有効な手法となる可能性が示唆された.今後の課題は,質問項目と推定法の改良および高齢層のデータの補充により推定精度の向上を図ることである.