2018 年 54 巻 5 号 p. 197-204
本研究は,視覚障害者の障害物またぎ動作時の足部軌跡の特徴を明らかにすることを目的とした.健常者10名と網膜色素変性症を原因疾患とする視覚障害者10名を被験者とした.被験者は任意の位置から4 cmと15 cmの障害物をまたぐ動作を行ない,その際の歩容に関するパラメータを算出した.その結果,いずれの障害物に対しても,健常者と比較して視覚障害者は障害物から離れた位置から踏み切り,そしてステップ長や動作時間が増加する傾向が認められた.また,障害物を踏み越す際と引き込む際の足部軌跡は健常者と比較して視覚障害者が高く位置しており,その際の足部挙上動作に対する努力係数((最高点-障害物高)÷障害物高)が高値を示した.さらに,視覚障害者は特に股関節屈曲動作によって足部クリアランスを確保する傾向が認められた.以上の結果より,視覚障害者は障害物またぎ動作をより慎重に労力をかけて行なうことで,安全な足部軌跡を確保し,転倒リスクを回避することが示唆された.