2019 年 55 巻 2 号 p. 33-39
本研究の目的は,複数対象追跡(Multiple Object Tracking,以下MOT)スキルのトレーニング効果の検討に加え,介入前後の視覚探索方略の変化を明らかにすることであった.実験参加者は男性の大学野球競技者29名で,トレーニング群(T群)19名とコントロール群(C群)10名に群分けした.介入内容はMOT課題であり,介入期間は3週間であった.介入の結果,群と介入前後の間で有意な交互作用が認められ,T群は介入前より介入後に有意にMOT課題の成績が向上していた.次に,トレーニング効果大群(LTE群)6名とトレーニング効果小群(STE群)6名の視覚探索方略の変化を検討した.その結果,介入後のLTE群の視線の移動距離は短く,停留点の移動速度は大きい傾向で,効果量は中程度と解釈できたが,有意差は認められなかった.以上の結果から,大学生野球競技者のMOTスキルはトレーニング可能であることが示された.また,MOTスキルのトレーニングによる視覚探索方略の明確な変化は明らかにできなかった.