抄録
人間は指と腕を協調させることによって, 対象物にかける力などを微妙に制御することができる. 本論文では, このような指と腕の協調による微妙な力制御が必要な例としてバイオリン演奏のボーイング動作をとりあげ, その弓圧制御における右腕の各関節の役割分担を工学的に明らかにすることを目的とした. 被験者は, 熟練者として職業演奏家2名, 未経験者2名の計4名とした. 演奏はバイオリン演奏において最も基本的と考えられるA線全弓での演奏とし, これを弓圧を3段階に分けて弾いてもらった. 右腕の動作は三次元動態分析装置, 弓圧は弓に取りつけたひずみゲージで計測した. それらの計測データから各関節トルクをニュートン-オイラー法で算出し, 分析を行った. その結果, 熟練者は手関節で弓圧の制御を行うなど, 各関節の役割分担が明確になっているのに対して, 未経験者では明確でないことが明らかとなった.