2025 年 52 巻 4 号 p. 591-596
心臓外科領域における術後急性腎障害(AKI)発症の機序の一つとして、人工心肺(CPB)の機械的ストレスで発生した血漿遊離ヘモグロビン(PF-Hb)による尿細管障害の関与が疑われている。今回、我々は、体外循環前後から術後におけるPF-Hbの推移とAKI発症との関連を検討したので報告する。
2020年12月から2022年2月の間に当院心臓血管外科でCPBを使用する開心術を受けた40症例を対象とした。CPB開始直後、CPB終了後、手術翌日、術後2日目にPF-Hbを測定し、PF-Hb推移を検討した。加えて術後AKIを発症した症例(n=8)と発症しなかった症例(n=32)の2群間比較を行った。
PF-HbはCPB終了時に開始時と比べて有意に上昇したが(p<0.01)、POD 1およびPOD 2は低下しておりCPB開始直後の値と差を認めなかった。AKI群とnon-AKI群の比較では、CPB後のPF-HbはAKI群で0.17(0.10-0.20)g/dL、non-AKI群で0.11(0.08-0.20)g/dLであり、統計学的に有意差を認めなかった(p=0.14)。
以上より、PF-HbはCPB終了後に一時的な上昇を認めるが、手術翌日には低下しAKI群とnon-AKI群でCPB後のPF-Hb値に差はなかった。AKI発症にはPF-Hbだけでなく、複数の因子が関連していることが示唆された。