抄録
大動脈の硬化性病変に特に注意を払わなかった平成2年9月以前の冠動脈バイパス術250例において,5例(2%)の脳梗塞を認めたことから,平成2年10月以降,術中超音波による上行大動脈の壁性状評価を採用し,187例に施行した結果,18例(9%)に壁性状の異常を認めた。これらの症例に対しては大動脈遮断,および静脈グラフトの上行大動脈への吻合の可及的回避と,送血部位の変更等を行う事により,脳梗塞の発症は1例(0.5%)と減少した。成人開心術における脳塞栓の頻度を下げるためには,上行大動脈の壁性状の把握は不可欠であり,術中エコーは有用な診断法と言える。