本研究は, 正統的周辺参加論に新たな知見を追加するため, 大学ゼミにおけるペア制度を題材として, 文化的実践の継承過程を検討したものである。「連続性と置換の矛盾」概念により, 実践共同体における価値規範が先輩と後輩のペア間でどのように再生産されているか, また, 世代間の葛藤がどのように変化するかについて明らかにすることを目指した。35名の大学生を対象に半構造化インタヴューを実施し, 質的に分析した結果, 【正統的継承】, 【発展的継承】, 【非意図的継承】, 【非継承】, 【継承改善】, 【継承失敗】から成る6つの継承カテゴリーおよび【文化価値の浸透】という1つの再生産カテゴリーが生成された。加えて, 先輩と後輩の間での継承の仕方の相違に伴う価値規範の再生産過程が, これらのカテゴリーを用いることで記述された。最後に, ペア制度を用いた大学ゼミにおける【文化価値の浸透】過程が, 先輩と後輩の間の葛藤生成および葛藤解消を介した世代継承の変革過程の側面から考察され, 継承理論としての正統的周辺参加の拡張可能性が議論された。