教育心理学研究
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原著
  • ―コロナ禍におけるストレスを媒介として―
    齊藤 彩, 松本 聡子, 吉武 尚美, 菅原 ますみ
    原稿種別: 原著
    2023 年 71 巻 4 号 p. 257-276
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2024/02/16
    ジャーナル フリー

     本研究は,全国47都道府県の4年制または6年制大学に在籍する4,120名の大学生にweb質問紙調査を実施し,大学生の注意欠如・多動傾向と抑うつとの関連を明らかにするとともに,注意欠如・多動傾向がコロナ禍におけるストレスを媒介して抑うつへと関連するメカニズムについて実証的検討を行った。パス解析の結果,注意欠如・多動傾向から抑うつへの直接の正の関連に加え,注意欠如・多動傾向の高さがコロナ禍におけるストレスの高さを媒介して抑うつの高さへと関連を示すことが明らかとなった。注意欠如・多動傾向の下位尺度である不注意および多動性・衝動性に関しても,不注意と多動性・衝動性の各変数から抑うつへの直接の正の関連に加え,不注意,多動性・衝動性の高さがコロナ禍におけるストレスの高さを媒介して抑うつの高さへと関連を示した。なお,注意欠如・多動傾向,不注意,多動性・衝動性のいずれのモデルについても,媒介モデルの間接効果は小さなものであった。

     注意欠如・多動傾向が高い大学生における抑うつ症状の発現リスクの高さを認識し,予防および早期介入に向けて,コロナ禍におけるストレスを軽減するような支援の必要性が示唆された。

  • ―学級適応感および場面差に着目して―
    古村 真帆
    原稿種別: 原著
    2023 年 71 巻 4 号 p. 277-290
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2024/02/16
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,児童がクラスメートに実施される個別支援をどのように捉えるのかについて学級適応感および場面差に着目した検討をすることであった。仮想の個別支援が実施される授業場面課題と学級適応感尺度を実施した。その結果,中学年では,被信頼・受容感が高いと個別支援に対する共感は高く無関心や不満は少ない,高学年では,居心地の良さの感覚・充実感が高いと個別支援に対する肯定・無関心は少ないことが明らかになった。加えて,個別支援の捉え方の組み合わせと学級適応感の関連を探索的に検討したところ,高学年では居心地の良さの感覚が高いと個別支援に不干渉は少なく両価的な捉え方をする児童が多いことが示された。

     以上より,中学年では被信頼・受容感を高めることで児童の不満は生じにくいことを指摘した。高学年で,居心地の良さの感覚が高いと個別支援に両価的な捉え方が生じたことについて集団の成熟の視点から理論的仮説を論じた。

  • 翁川 千里, 田代 琴美, 岩城 美良, 大森 美香, 渡辺 弥生
    原稿種別: 原著
    2023 年 71 巻 4 号 p. 291-304
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2024/02/16
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,第一に音声からどのように他者の感情を理解するのか探索的に明らかにすることであり,第二に,共感性と音声からの他者感情理解との関連を明らかにすることであった。参加者(高校1年生,N=317)は3つの感情(「喜び」,「悲しみ」,「怒り」)を想定して録音された音声刺激に対しこの3つの感情の選択肢から正確に選ぶ設問と,自由記述で回答する設問で構成された質問紙に回答した。共感性との関連は,子ども用認知・感情共感性尺度(村上他, 2014)を用いて測定した。その結果,選択法では「悲しみ」の正答率が低く,「喜び」と「怒り」の音声刺激を正確に判断できる生徒が比較的多いことが明らかとなった。自由記述をもとにした計量テキスト分析からは,多様な回答が寄せられたが「喜び」と「怒り」に近似性がみられ,本来は「喜び」の感情をもって他者が発話していた声を「怒り」として受け取る場合が少なくない可能性が示唆された。共感性については「ポジティブな感情を共有する傾向」や,「相手のポジティブな感情に敬意を持っている傾向」が高い人は,音声から他者の「喜び」の感情をより正確に理解できることが明らかになった。

  • 永井 智, 廣井 いずみ
    原稿種別: 原著
    2023 年 71 巻 4 号 p. 305-318
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2024/02/16
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,少年院入所男性における出院後の法務教官への援助要請意図の関連要因を検討することであった。またその際,法務教官の態度・行動の認知を捉える尺度を作成した。少年院に入所する男性を対象に質問紙調査を行い,援助要請意図,利益の予期,援助要請のセルフスティグマ,法務教官の態度・行動の認知,過去の相談経験,男性役割,感情抑制,悩みの予期を尋ねた。有効回答数は215であった。分析の結果,法務教官の態度・行動は誠実な態度・行動,支援的態度・行動の2つの因子で構成されることが示され,尺度の信頼性と妥当性が示された。共分散構造分析の結果,利益の予期は援助要請意図に正の関連を示した一方,セルフスティグマは援助要請意図に対して関連を示さなかった。法務教官の態度・行動の認知,相談経験,男性役割は利益の予期を媒介して援助要請意図に対して正の関連を示した。その他,相談経験と感情抑制は援助要請意図に対して直接性の関連を示した。

原著[実践研究]
  • ―定期テスト後の教訓帰納方略の利用に着目して―
    柴 里実
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2023 年 71 巻 4 号 p. 319-334
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2024/02/16
    ジャーナル フリー

     本研究では,問題解決の失敗から学んだことを言語化する学習方略「教訓帰納」の質とその後の問題解決との関連を検討した。まず,著者を含む研究者と中学校の教師が協力して,中学1年生80名に対して教訓帰納の利用の指導を行った。次に,その生徒を対象に,数学の定期テスト後に,正答率の低かった4つの問題について教訓帰納を求める課題を実施した。教訓の質は「自分の間違いに即して,同型問題解決にも活用できる汎用的な知識に言及しているか」という観点に沿って5段階で評価された。分析の結果,2つの問題で,定期テスト時の問題解決得点と復習の有無を統制したとき,教訓の質と事後問題解決得点との関連が示された。さらに,「問題に関連する知識に言及しているが,自分の間違いに即したものではない」教訓を引き出した生徒が,定期テストと事後テストで同じ誤答を繰り返していた事例が確認された。また,本研究では,研究者と学校教師が連携して継続的に学習方略指導を行った実践の過程も記述し,生徒が質の高い教訓を引き出せるようになるための支援の必要性について考察した。

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