教育心理学研究
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原著
  • ―教育現場に根付いているブロック練習を問い直す―
    尾之上 高哉, 井口 豊
    原稿種別: 原著
    2024 年 72 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/04/24
    ジャーナル フリー

     本研究では,教育の現場でよく用いられるブロック練習に指摘される弱点が,実際に顕在化するか否かを検証した。その弱点とは,練習問題をブロック練習の構成で提示した場合,学習者が「問題の種類を見分けて,必要な方略を想起し,選択する」ことなく,「方略を問題に実行するだけ」になる,というものである。本研究では,それが特に顕在化し易い場面と想定される,1単元の学習計画の中の「各課題の学習を行う場面」で検証を行った。大学生43名に,まず学習課題である立体「ウェッジ」の求積に必要な方略「r2hπ/2」を理解してもらい,次に練習問題を提示した。その1問目を,事前の告知なしに「三角柱」の求積問題とした。つまり,参加者が「問題の種類を見分けて,必要な方略を想起し,選択した」ならば,直前に理解したr2hπ/2を使って解くことはないだろうと判断できる問題とした。三角柱の問題が出題された際の参加者の最初の反応を分析した結果,43名中35名(81%)がr2hπ/2を使って解こうとしたことが確認された。つまり,この場面では,早くも1問目の問題を解く時点から,「方略を問題に実行するだけ」になる,という弱点が顕在化し易い可能性が示された。この結果を踏まえて,ブロック練習の捉え方や,現場での実践の考え方について議論した。

  • ―メタ創造性と創造性の関係―
    外山 美樹
    原稿種別: 原著
    2024 年 72 巻 1 号 p. 11-26
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/04/24
    ジャーナル フリー

     本研究では,メタ創造性の「メタ創造的コントロール」に焦点を当てて,メタ創造性と創造性の関連を検討することを目的とした。研究1では,創造性を育む可能性のある方略を選定した。その際に,方略の内容としては,創造性との関連が実証されている創造性の2過程モデルを援用し,認知的柔軟性だけでなく,認知的持続性も扱った。続く研究2では,研究1で選定した項目を用いて,メタ創造性と創造性の関連を検討した。その結果,両者には有意な正の関連が見られることが示された。最後に研究3では,高校生を対象にして,メタ創造性への介入を行うことによって,創造性の向上につながるのかどうかを検討した。その結果,認知的柔軟性または認知的持続性のメタ創造性を意図的に実行することによって,創造性が向上することが明らかになった。本研究の知見は,メタ創造性に関する先行研究の知見を補完・拡張するものであった。教育の現場において創造性を育む試みとして,メタ創造性のプロセスを重視した介入プログラムを開発し,実践することの必要性が示唆された。

  • 稲村 建
    原稿種別: 原著
    2024 年 72 巻 1 号 p. 27-39
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/04/24
    ジャーナル フリー

     本研究では,非定型問題を題材とした授業において,その問題の解決の方針として複数の小問を設定するという授業上の工夫(方針提示)が,生徒の概念的理解の深化に及ぼす影響について検討を行った。高等学校の数学Ⅰにおける不等式を題材として,個別での問題解決,解法の共有と比較検討,再度の個別解決からなる授業を構成し,事前課題-授業-事後課題のデザインで実施した。その際,方針提示の下で個別での問題解決に取り組む群(方針提示群)と方針提示をせずに自由な探究の下で個別での問題解決に取り組む群(自由探究群)を用意し,比較を行った。分析の結果,概念的理解の深化のみられた生徒は方針提示群のみからなるクラスではみられなかったのに対し,自由探究群のみからなるクラスでは少ないながらもみられた。また,授業の中で共有されていた表を用いた考え方に着目して検討したところ,個人の学習過程における表の取り入れ方にクラスによる違いがみられ,このことが概念的理解の深化に影響していた可能性が考えられた。また,このような表の取り入れ方の違いについて,方針提示群と自由探究群の生徒が混在し,解法の共有と比較検討の場面が同一となるように設定したクラスにおいても,群間の差が生じていた。

  • ―深刻ないじめ被害類型に着目して―
    舒 悦, 鈴木 修斗, 太田 正義, 加藤 弘通
    原稿種別: 原著
    2024 年 72 巻 1 号 p. 40-56
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/04/24
    ジャーナル フリー

     いじめが原因で起こる事件の中には,いじめ被害者が起こした,加害者に対するリベンジも少なくない。これまでの先行研究から,より頻繁にいじめを受けた被害者は,リベンジ念慮と身体攻撃行動が有意に高いことが示されている。しかし,学校におけるいじめがどのように被害者のリベンジ(報復攻撃行動)につながるのか,またその攻撃行動の対象は加害者に限定されるものなのか,そのメカニズムを検討した研究は少ない。本研究では,「週に何度も」発生しているいじめ被害を深刻ないじめとして提案し,類型化の視点から深刻ないじめ被害の実態を解明した。そのうえ,深刻ないじめ被害類型と,報復攻撃信念および一般攻撃信念との関連を検討した。その際,学級環境の影響についても検討するため,学級の荒れとの交互作用を考慮した。小中学生3,980名を対象に質問紙調査を行った結果,関係性や身体・言語的ないじめ被害は,報復攻撃信念と関連があること,暴力や暴言など直接的ないじめを受けた児童生徒は,荒れている学級に所属している場合に,一般攻撃信念を高く示すことが明らかとなった。以上の結果をふまえて,深刻ないじめ被害者のリベンジ抑制の観点から実践的示唆について議論した。

原著[実践研究]
  • ―WISC-IVの協働的フィードバックを活用して―
    土井 裕貴, 稲月 聡子
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2024 年 72 巻 1 号 p. 57-68
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/04/24
    ジャーナル フリー

     本研究は,スクールカウンセラーが特別支援教育の実践において,小学校1年生の担任へコンサルテーションの一部として実施した,児童のWISC-IVの結果の協働的フィードバックを通した支援のプロセスを明らかにするとともに,担任教員への支援効果について探索的に検討することを目的とした。担任へ協働的フィードバックを実施した後,半構造化インタビューを行い,その結果をSCATで分析した。結果として「検査の導入」「検査実施とフィードバック」から「フィードバック後の介入と支援への活用」までの時系列に従ってスクールカウンセラーの協働的フィードバックを用いたコンサルテーションの過程と,支援が円滑に進んだストーリーラインが示された。その過程から,教育現場におけるWISC-IVの協働的フィードバックを通した担任教員本人への直接的な支援効果だけでなく,担任を中心に,本人や保護者,クラスメイト,特別支援学級担任へも波及的に好循環が起こる潤滑油的機能がみられた。

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