教育心理学研究
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原著
  • ―「深化機能」を中心に―
    工藤 与志文, 佐藤 誠子, 進藤 聡彦
    原稿種別: 原著
    2024 年 72 巻 3 号 p. 141-156
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/11/16
    ジャーナル フリー

     これまで,ルールによる課題解決の困難さが繰り返し指摘されてきた。教授されたルールによる課題解決を暗黙に想定する「教授主義的前提」に立つ従来の研究は,本来可能なはずの課題解決を阻害する認知的要因に焦点を当ててきた。これに対し本研究では,学習者自身の知識構成を重視する「構成主義的前提」のもとに,学習者が構成する知識水準とルールの機能の関係に着目し,ルールの機能の理解を促進するための教授が学習者の知識構成水準を引き上げ,課題解決を促進するという仮説を検証した。大学生を対象に,既知の事柄を要約的に表現する「要約機能」,未知の事柄に関する予測を可能にする「予測機能」,ルールを構成する概念の理解を深める「深化機能」をそれぞれ強調した教材によるルール学習を求めた。学習成果はルールによる解決が可能な3種類のテストにより測定した。その結果,テスト成績が最も良かったのは,「深化機能」を教授した群であり,知識構成の水準が高い場合に高いパフォーマンスが得られることが確認された。以上の結果は,ルールによる課題解決の促進において,ルールの機能的側面の教授が重要であることを示すものである。

  • ―時系列分析を用いて―
    吉岡 昌子, 藤 健一, 佐藤 敬子
    原稿種別: 原著
    2024 年 72 巻 3 号 p. 157-168
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/11/16
    ジャーナル フリー

     講義の板書が,教員の発話と付随する行動,および,大学生のノートテイキングに及ぼす影響を検討した。参加者は大学生24名であり,無作為に4群(講義1から4)に割り振られた。独立変数は板書の有無であった。実験群(講義2, 3)は講義の前後半で板書をありからなしの状態(口頭のみ)に切り替え,対照群(講義1, 4)は前後半で板書を用いた。ノートテイキングと板書は書字の1画,教員の発話は1モーラを単位として反応を測定した。主な結果として,板書あり条件はなし条件より発話速度が毎分約50モーラ少なく,教員の指さしや移動が多かった。時系列分析によれば参加者の21名は板書から60秒以内にノートをとる反応を生じた。板書に含まれた語の筆記率は,後半の水準では対照群が実験群より有意に高かった。参加者が筆記した総画数や板書の図式をノートに採用する程度はばらつきがみられた。結果より,板書は教員の発話速度を低下させ,身体動作を増し,英単語や説明のための例の筆記を維持させることが示唆された。質問紙の回答からは,ノートをとる動機づけが筆記量やノートのとり方に影響を及ぼす可能性が考えられ,今後の検討課題とされた。

  • 指方 賢太, 小澤 永治
    原稿種別: 原著
    2024 年 72 巻 3 号 p. 169-182
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/11/16
    ジャーナル フリー

     内受容感覚に焦点を当てた研究は強迫症の理解や支援に有効であるとされている。近年強迫的な行動を引き起こす動機として危害回避と不完全感の2つが提唱されている。中でも不完全感は治療効果を低減させることから近年の研究で注目を集めている。複数の研究において不完全感に影響を与える要因として内受容感覚の認識の困難さが指摘されている。本研究では内受容感覚の敏感性が不完全感と危害回避を予測すると仮説を立てた。研究参加者は日本人大学生202名(Mean age=21.13, SD=1.82)であった。階層的重回帰分析を行った結果「Emotional Awareness」が危害回避を予測し「Trusting」が不完全感を予測していた。これらの結果から危害回避と不完全感にはそれぞれ異なる内受容感覚の敏感性が関連していることが示された。そのため強迫的な行動の動機の違い(危害回避と不完全感)によって強迫的な行動に対する有効な治療法が異なる可能性が示唆された。今後の研究では縦断研究を行い因果関係について明らかにする必要がある。

原著[実践研究]
  • 太幡 直也
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2024 年 72 巻 3 号 p. 183-196
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/11/16
    ジャーナル フリー

     これまでに実施された大学生のチームワーク能力を向上させるトレーニングは,対面での実施を前提としたものであった。本研究では,大学生のチームワーク能力を向上させるトレーニングをオンラインで実施し,トレーニングの有効性が確認されるか否かを検証した。検証対象とした三つの条件は,(a)完全オンライン実施条件(男性12名,女性4名),(b)一部オンライン実施条件(男性8名,女性10名),(c)非実施条件(男性10名,女性3名)であった。全員が,著者が担当する授業を受講する大学生であった。トレーニングを実施した条件では著者がトレーニングをオンラインで実施し,トレーニングなし条件では著者がトレーニングとは関連のない講義を実施した。トレーニングは15セッションあり,1セッションあたり90分であった。トレーニング前後の時期に,調査対象者に,社会的スキルや,チームワーク能力の五つの構成要素(「コミュニケーション能力」,「チーム志向能力」,「バックアップ能力」,「モニタリング能力」,「リーダーシップ能力」)を自己報告する尺度に回答するように求めた。その結果,非実施条件に比べ,トレーニングをオンラインで実施した条件では,社会的スキル,チームワーク能力の「チーム志向能力」を除く四つの能力の多くの下位尺度で,事後の得点の上昇が大きかった。完全オンライン実施条件と一部オンライン実施条件には,それぞれの尺度の変化に有意差がみられなかった。したがって,オンラインで実施したトレーニングが,大学生のチームワーク能力を向上させる点で有効であると考えられる。

展望
  • ―『教育心理学研究』実践研究論文の現状と課題―
    小林 敬一
    原稿種別: 展望
    2024 年 72 巻 3 号 p. 197-208
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/11/16
    ジャーナル フリー
    電子付録

     『教育心理学研究』に掲載された多くの実践研究論文(原著〔実践研究〕)がこれまで,非アカデミックなコンピテンス(例えば,社会情動的コンピテンス)の育成を目指す授業ベースの心理教育的介入プログラムを開発し効果の検証を行ってきた。ただし,介入プログラムが学校の授業を活用して実施される場合,その効果判断には様々な問題が起こり得る。本論文ではまず,授業と介入プログラムの結びつきに関する仮説的モデルを土台にして,次の4つの観点からそうした起こり得る問題を詳述した。すなわち,(a)介入プログラムの一次効果,及びそれを介した二次効果への影響を確認しているか。(b)介入プログラムを実施したクラス集団内の測定値は独立しているか。(c)介入プログラムの忠実性を評価しているか。(d)介入実践における要求特性の問題に対処しているか。続いて,『教育心理学研究』の掲載論文(2009―2022年)から抽出された実践研究論文22本を対象にしたレビューを行い,多くの論文で上記の観点に立った検討がなされていないことを明らかにした。最後に,残された課題と今後の実践研究で留意すべき点について議論した。

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