教育心理学研究
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原著
  • ―認知方略による調整効果の検討―
    石山 裕菜, 鈴木 直人, 及川 昌典, 及川 晴
    原稿種別: 原著
    2020 年 68 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2020/05/01
    ジャーナル フリー

     悲観主義者は楽観主義者よりも不安を感じやすく不適応な傾向にあるが,その一部には不安を手かがりに予防的な対処を行い,パフォーマンスを向上させる防衛的悲観主義者が含まれる(Spencer & Norem, 1996)。表現筆記には,パフォーマンスの向上を含む様々な効用が報告されているが,それに関する知見は混交している。本研究では,表現筆記の効用が個人の認知方略と一致した内容を筆記することによって調整される可能性を,客観的なパフォーマンス指標であるダーツ課題を用いて検討した。参加者97名は,課題を行う前に,失敗する可能性に注目して対処を考えるコーピング筆記,成功する可能性に注目して課題に集中するマスタリー筆記,課題とは無関係な内容を考える統制筆記のいずれかを行った。その結果,防衛的悲観主義者においては,コーピング筆記条件のパフォーマンスが他の筆記条件よりも高かった一方で,方略的楽観主義者においては,差が観察されなかった。表現筆記の効用は,適応に優れる楽観主義者よりも不安を感じやすい悲観主義者において顕著であり,また,防衛的悲観主義者の持つ慢性的な認知方略と整合した内容で表現筆記を行うことが,パフォーマンスの向上に有効である可能性が示唆された。

  • 吉良 悠吾, 尾形 明子, 上手 由香
    原稿種別: 原著
    2020 年 68 巻 1 号 p. 11-22
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2020/05/01
    ジャーナル フリー

     本研究は,ソーシャルスキルの階層性を考慮し,認知や情動面のスキルも測定できる「成人用ソーシャルスキル自己評定尺度」が青年に適用可能であることを確認した上で,項目反応理論を用いて短縮版尺度を作成し,その短縮版尺度を用いて,具体的な対人場面におけるスキルである対人スキルと,それらを発揮する基となる,汎状況的な認知・情動・行動スキルであるコミュニケーション・スキルとの関連性を検討することが目的であった。多母集団因子分析によって,青年のソーシャルスキルを同様の因子構造で測定できることを確認した上で,項目反応理論を用いて35項目であった項目数が20項目となる短縮版尺度を作成した。また,階層的重回帰分析の結果,対人スキルの発揮のためには,自分の意思を相手に伝えるための行動スキルだけでなく,認知や情動面のスキルも重要であること,その関連性は対人スキルの種類によって異なることが示された。したがって,青年のソーシャルスキルを高めるためには,対人スキルの種類に合わせて,認知や情動面のスキルを含めた訓練が有効であることが示唆された。

  • ―他者とのミスコミュニケーション場面での検討―
    山田 真世
    原稿種別: 原著
    2020 年 68 巻 1 号 p. 23-32
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2020/05/01
    ジャーナル フリー

     子どもたちは幼児期早期から絵を描き始め,絵が自身のイメージや経験といった何らかの指示対象を示すこと,そして,絵が他者へ情報を伝達することを理解していく。本研究では,子ども自身が描いた絵に対して直接的なミスコミュニケーション場面を設定し,子どもの描く絵の表現変化とその変化に影響を及ぼす要因を検討することで,幼児期における絵の情報伝達機能の理解を明らかにすることを目的とした。3歳クラスから5歳クラスの幼児に,ある対象を描くことを求めた(第1描画)。その後,絵を描くところを見ていない調査者が何を描いたのか尋ね,参加児の絵への意味づけに同意する状況(一致条件)と参加児の意味づけ以外の見え方があることを指摘する状況(不一致条件)を設定した。やりとりの後に,参加児は第1描画で描いた対象を再び描いた(第2描画)。結果,不一致条件の第2描画において,対象についてのより詳細な情報を描き込む表現調整が生じていた。表現調整に対して,他者と自己の心的状態の理解との関連を検討したところ,他者信念の理解と表現調整の成績間に関連が見られた。

原著[実践研究]
  • 脇 貴典, 須藤 邦彦
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2020 年 68 巻 1 号 p. 33-49
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2020/05/01
    ジャーナル フリー

     現職の特別支援教育コーディネーター4名に対するコンサルタント養成トレーニングを実施した。標的行動であるコンサルテーションスキル(問題解決スキル,対人関係スキル)獲得のためのトレーニングを実施し,コンサルタント有効感尺度による第三者評価を行った。トレーニングは,短期集中型の介入(介入1回目,2回目)と現場での実践を挟んだ維持(維持1回目,2回目)とを組み合わせて行った。介入1回目では,一斉場面での講義及びビデオによるパフォーマンスフィードバックを行い,標的行動の生起率が増加した。しかし,維持1回目では標的行動の生起率は介入前程度に減少した。そこで,介入2回目として個別のパフォーマンスフィードバック及びコンサルテーション面接用シートにもとづく介入を行い,再度生起率が上昇した。維持2回目ではやや減少したものの介入前よりも高い生起率を示した。また,第三者によるコンサルタント有効感の評定は介入後に概ね高まった。これらの結果から,短期集中型介入と現場実践を挟んだ段階的なトレーニングの有効性が示された。また,標的行動の維持にはコンサルテーション面接用シートの活用など補助ツールの必要性が示唆された。

  • ―中学校国語科のタブレットを用いた授業による検討―
    小野田 亮介, 大澤 和仁
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2020 年 68 巻 1 号 p. 50-65
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2020/05/01
    ジャーナル フリー

     本研究では,受け手に合わせた情報発信の促進を目的として,タブレットによるプレゼンテーション視聴と受け手との相互フィードバックを行い,これらの介入が情報発信プロセスと情報発信活動への動機づけに与える影響を検証した。中学校1年生256名が参加した「本の魅力を伝える授業」を対象とし,ペアでのプレゼンテーション後に(1)録画したプレゼンテーションを1人で視聴する「視聴条件」,(2)相互フィードバックを行う「ペア条件」,(3)プレゼンテーションをペアで視聴し,相互フィードバックを行う「視聴・ペア条件」の3条件を設定し,ペア活動後の発信内容の変化について比較した。その結果,視聴・ペア条件では他の条件に比べて,プレゼンテーション後の発信内容の修正がより多く行われており,情報発信活動への興味と困難度の評定が共に増加していた。視聴・ペア条件の生徒は情報発信への興味を感じると同時に,受け手に合わせることの難しさも認識しており,それゆえに発信する内容を積極的に調整していたのだと考えられる。以上より,プレゼンテーション視聴と相互フィードバックを組み合わせることで,受け手に合わせた調整が効果的に促進される可能性が示された。

  • ―Q-Uを用いた中学校での探索的研究―
    中野 有美, 鋤柄 増根, 志村 尚理, 中川 敦夫, 大野 裕
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2020 年 68 巻 1 号 p. 66-78
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2020/05/01
    ジャーナル フリー

     本研究は,認知行動療法の考え方を活用したこころのスキルアップ教育プログラムを中学1年生に実施し,生徒の学校生活への意欲,学級から受ける受容感・安心感への影響を検討した。各学級の担任教員が,5月から6月にかけて本プログラムを4回行い,日常の体験を状況,気分,思考,行動に分けて整理することや,気分が状況のとらえ方から影響を受けていることを生徒に学習させ,さらに怒り感情に向き合い対処する方法を学ばせた。自記式の質問紙Questionnaire-Utilities(Q-U)を,このプログラムの前後に実施し,学校生活への適応度を測定した。同時期に,ほぼ同等の中学校(統制群)に,Q-Uのみを実施した。その結果,教育プログラム実施校では,Q-Uの学校生活意欲尺度得点が上昇し,未実施校では減少していることが示された。次に,意欲尺度得点の下位尺度分析を行ったところ,教員との関係,次に友人との関係において,総合得点の分析結果と類似の傾向が見られた。さらにQ-Uの学級満足度尺度における承認得点が,未実施校では減少しており,実施校では変化がなかった。これらの結果により,本プログラムが実施される学校環境で過ごす中学1年生は,教員や級友との良い関係性を中心に学校生活への意欲が維持,増進される可能性が示された。

  • ―学年規模のポジティブ行動支援による問題行動予防―
    庭山 和貴
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2020 年 68 巻 1 号 p. 79-93
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2020/05/01
    ジャーナル フリー

     本研究では,授業中の教師の言語賞賛回数の増加によって,生徒の授業参加行動が促進されることで,相対的に問題行動は減少するのかについて検証した。介入対象は公立中学校2年生の通常学級の教師8名と生徒122名(計4学級)であった。生徒指導上の問題発生率について,他学年を統制群として比較した。介入開始前のベースライン期では,言語賞賛が生徒の授業参加行動を伸ばすのに有効であることを教師に対して教示したが,その他は教室内での行動観察のみを行った。介入期では,教師が授業中に自身の言語賞賛回数を自己記録し,この回数を主幹教諭に報告した。主幹教諭は,言語賞賛回数が増えていれば教師を賞賛し,増えていなければ増やすよう奨励した。介入の結果,教師らの言語賞賛回数が増え,各学級の平均授業参加率が上昇した。さらに,生徒指導上の問題発生率は有意に減少した。介入を行わなかった他学年では,生徒指導上の問題発生率の減少は見られなかった。このような効果は,介入終了後のフォローアップにおいても,維持されていた。今後は,このような組織的な支援を学校規模で導入していく手順について,日本の学校教育システムに合わせたものを検討していく必要があると考えられる。

展望
  • ―犯罪者に対するマインドフルネス瞑想の可能性―
    大江 由香, 杉浦 義典, 亀田 公子
    原稿種別: 展望
    2020 年 68 巻 1 号 p. 94-107
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2020/05/01
    ジャーナル フリー

     犯罪者の中には,有効性が確認されている処遇を受けても,再犯に至る者が一定数おり,自己統制力や自己認識力に乏しく,指導を受け入れ,生かせないことが処遇効果を減じる要因になっている。本稿では,幅広い認知機能に関連し,自他に関する認識の変化につながると言われるマインドフルネス瞑想に注目して文献研究を行って,自己統制力や自己認識力を高めるための具体的な方法について検討した。マインドフルネス瞑想を,マインドワンダリングとの関わりという観点から,注意制御やアクセプタンス,呼吸法などが相互作用する3次元モデルとして整理すると,脳の中央実行ネットワークの機能が高まり,デフォルトモードネットワークの機能が適正化されることによって,自己統制力や自己認識力が向上するというメカニズムが明らかになった。マインドフルネス瞑想は,そのメカニズムを理解して実施することによって,自己統制力と自己認識力を高めるための指導の選択肢として,あるいは,従来の犯罪者指導の効果を増幅させる手段として,再犯の防止に寄与し得ると考えられた。

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