教育心理学研究
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対連合における意味的学習と機械的学習
波多野 誼余夫外原 恵子
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1965 年 13 巻 1 号 p. 12-18,60

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抄録

プログラム学習や授業研究の展開にともなつて, 心理学者が教科の学習過程に関心を示すようになつたことは最近の教育心理学における顕著な傾向のひとつといえよう。そこでは, 学習の一般法則を追求するというより, 個々の教材に関して, なにをどのように教えるべきかを明らかにすることが, 研究者の主な課題となつているように思われる。だが, このような学習過程の実践的研究が, 教授学的な水準にとどまることなく, 効果的な授業の創造をとおして, 教育心理学自体の発展にも寄与しうるためには, さまざまな教材にわたつて有効な仮説を導きうる, 学習過程についての心理学的な理論体系を前提としなければならない。つまり, そのような授業のすすめかたがなぜ有効であるかが, 心理学的に説明されることが必要なのである。細谷ほか (1963) のあげている次元間弁別, 外そう, 例示・類比・モデルなどの手だては, 概念形成を含む学習過程を, 授業においてどのように組織化するか, のよりどころとなる心理学的原理を求めるものといえよう。
だが一方, このような手だてによつて教師が学習材料を児童の認知構造へと関係づけて学習させようとする場合, 教案作成をどのような形式において行なうべきかの原理に関しては, 十分説得力のある証拠はまだないように思われる。Ausubel (1963) が指滴しているように, その学習・保持・忘却の過程において, 教室で行なわれている意味的学習 (meaningful learning) は, 従来の実験心理学での主な対象となつてきた機械的学習 (rotelearning) の過程とは, 本質的に異なる点を含んでいる。だから, 機械的学習について見出された, いわゆる学習の法則を, 教科の学習にそのまま持ち込むことは許されない。たとえば, 機械的学習においては, きわめて, はつきりと認められる, 集中練習に対する分散練習の優位は, 概念形成のような複雑な課題を扱つた実験には認められないばかりか, かえつて集中練習が優位を示すことさえあるといわれる (Ellis, 1960) 。
そこで教案編成のひとつの心理学的な足がかりを得るために, まずこうした意味的学習についての研究が必要になつてくる。意味的学習が機械的学習に対してもつ優位を, いかにして最大にひき出すことができるか, それを促進する条件の分析は, 形式的には実験心理学的な手法をとつている場合でさえ授業の質を高めるうえに役立ちうるのではないだろうか。

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