教育心理学研究
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幼児の社会的行動の模倣学習
牛山 聡子
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1969 年 17 巻 4 号 p. 203-213

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抄録

本実験は次のことを検証することを目的として行なわれた。
(1) 幼児は, 幼児に対し特に影響力を持つとは考えられないモデル (この場合女子学生) の社会的に望ましいとされている行動をどの位模倣するか。(実験I)
(2) その際, 代理強化はどの程度の効果を及ぼすか。 (実験I)
(3) 模倣された行動はどの程度維持されるか。(実験I)
(4) モデルが同年令児である場合の幼児の模倣の程度。 (実験II)
(5) 暗示的な質問の模倣に及ぼす効果。(実験II)
そのため実験1の被験児には, 4才児組から男児22名女児18名, 5才児組から男児16名, 女児22名をとり, 実験IIの被験児には, 5才児組から男児14名, 女児8名をとった。2名の幼児に1個の玩具しか与えなかったときの幼児の遊び方を観察するために, 被験児は性と年令を同じにしてふたり1組にされた。被験児たちはモデルの行動を観察する前と後, および玩具をかえて, その遊び方を観察された。実験1の被験児たちには, 8mm映画によって, モデルの行動のみ (無報酬群), あるいは, モデルの行動と賞賛の声 (報酬群) が示された。統制群にはそうしたものはなにも示されなかった。実験IIの被験児たちには, 女子学生モデルの行動のみか, あるいは, 幼児モデルの行動のみが示された。その後の遊びの途中で「仲よく遊べたか」という暗示的な質問が与えられた。モデルたちは, まず玩具の使用をゆずりあい, それから「ジャンケン」をし, 交代で玩具を使った。実験1の5才児のみが, モデルの行動を2回観察した。被験児の行動は観察室から観察され, 観察は, おもに, 玩具の所有の移動についてなされた。観察者は, 玩具が移動した時の時間, 移動のしかた, 玩具の所有者, 被験児たちの会話を記録した。会話はテープにも録音された。
実験の結果は次のようであった。
(1) モデルの行動を観察させる前には, 1組の被験児たちも「ゆずりあい」や「ジャンケン」をしなかった。統制群の被験児たちは実験の間中,「ゆずりあい」も「ジャンケン」もしなかった。無報酬群・報酬群 (実験1), および女子学生モデル群 (実験II) の少数の5才児たちが, モデルのゆずりあいとジャンケンを模倣した。以上のことは, 5才児はたった1回または2回, モデルの行動を観察するだけでも, 特に影響力を持つとは考えられないモデルの社会的に望ましいとされている行動を模倣するということを示しているといえよう。
(2) モデルに対する報酬を観察させること (代理強化) は, 必ずしも, モデルの行動の模倣を促進させなかった。
(3) 模倣された行動は, たとえ玩具がかわっても維持される傾向にあった。.
(4) 同年令児モデル群の幼児が1名もモデルの行動を模倣しなかったという事実と, 幼児の自発的な会話から, たとえ幼児はモデルと自分たちとの類似性に気づき, モデルの行動と自分たちの行動との相違に気づいたにしても, それだけで, モデルの行動を模倣するわけではないということがわかった。
(5)「仲よく遊べたか」という暗示的質問は, あらたにモデルの行動の模倣を生じさせはしなかった。

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© 日本教育心理学会
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