教育心理学研究
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幼児の対象認知と描画に関する実験的研究
川床 靖子
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1974 年 22 巻 4 号 p. 227-237

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抄録

描画の過程は外的事物事象の認知と構成反応から成り立っている。従って, 例えば描画の結果だけを年齢別に並べて眺めてみても描画の心的機能を明らかにすることはできない。実験者がある問いかけをもち, 描画対象をこのように認知させたら描画内容がこのように変化したという資料を積み重ねることによって, はじめて, 描画の過程は明らかになるだろうと考える。
今回の研究は, 4・5才児を被験日者にして写実画模写の内容を手本との類似度の高いものにするという目標を設け, その目標に到達させる中で描画の心的過程を探った。
教育に先き立ち, いくつかの予備的実験を行い, 対象画をどのように認知させたらよいか, そしてその手だてとしては何が有効かということの予測を立てた。予測の内容は, 幼児の中に“形”属性のvalueで対象を抽象することのできる情報処理機構をつくり, それによって描画にふさわしい認知を行わせようというものであった。そしてその手段としては, 対象をいくつかの部分に分割させること, 分割した各部分の形を単純な形に置きかえてみることを習慣化させることなどが有効なのではないかと予想した。
そこで, 写実画教育の前に略画教育を行い, 対象の分割や形のおきかえを指導し, 事物の基本的な構造や形についての知識も与えた。写実画教育では, 当初, 具体的に目に見える方法で対象画を分割し, 形のおきかえをくりかえし行わせた。後にそれらの行為を内面化させるようはかった。この様な教育の結果, 写実画模写の内容は教育前に比べて手本との類似度の高いものとなり, 被験児自身も模写することに困難を感じない状態となった。
以上の教育効果から, はじめに立てた予測は検証されたといえるだろう。そして, 被験児が模写の内容を高めていった経過をみると, 描画過程は, 形属性のvalue, 具体的にいうと, 幾何学形態のようないくつかの単純な形を基本的な単位とした対象の符号化と再符号化の過程とみることができるように思われる。このことは, 実物描画, または, 目の前に対象物 (画) の無い場合についての研究を通して更に検証していかなければならないだろう。

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© 日本教育心理学会
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