教育心理学研究
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精神薄弱児の弁別学習における手がかり機制の発達に関する研究
梅谷 忠勇生川 善雄堅田 明義
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1977 年 25 巻 4 号 p. 209-218

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抄録

本実験では, 従来用いられている弁別任意移行 (逆転移行;非逆転移行) 課題とは材質の異なる課題を新たに設定し, 経年的変化に伴なう移行の反応様式 (概念的移行;知覚的移行) の発達的変化に関して, 正常児と精薄児とを比較検討した。さらに, 概念的移行, 知覚的移行の反応様式をそれぞれ, 移行過程の弁別の手がかりを適切に言語化できる反応と言語化できない反応, 先行弁別の適切な手がかりに対する反応と不適切な手がかりに対する反応の2つに分けて検討した。
その主な結果は, 以下の通りである。
1. 正常児群, 精薄児群ともに, 年齢段階の推移に伴なって, 概念的移行の反応様式を選ぶ者の割合は増加し, 知覚的移行の反応様式を選ぶ者の割合は減少する。
2. 両被験児群について比較すると, 正常児群はCA 5~6歳を過渡的年齢段階として, 概念的移行の反応様式を選ぶ者の割合が知覚的移行の反応様式を選ぶ者の割合よりも多くなる。これに対して, 精薄児群はMA7~8歳を過渡的年齢段階として, うえの現象が認められる。
3. 知覚的移行の反応様式を選ぶ者の中で, 先行弁別の適切な手がかり (「大」または「小」) に反応する者の割合は年齢段階の推移に伴なって増加し, 先行弁別の不適切な手がかり (「赤」) に反応する者の割合は減少する傾向にあることがうかがわれる。また, 前者の反応が後者の反応の割合よりも多くなる年齢段階は, 正常児群C A5歳前後と推定され, 精薄児群MA6~7歳であることがみられる。
4. さらに, 概念的移行の反応様式を選ぶ者の中で, 移行過程の弁別の手がかりを適切に言語化できる者の割合は, 年齢段階の推移に伴なって増加する。また, 精薄児群の言語化できる者の割合は, 同一年齢段階の正常児群のそれに比べ20~30%少ない。
5. 各年齢段階の被験児群を, 知覚的移行者, 概念的転位移行者および概念的言語媒介移行者の3つの反応様式に分けて詳しく分析すると, 特に, 概念的言語媒介移行者の割合では精薄児群ば正常児群に比べ少ない傾向にある。両被験児群の年齢段階の推移に伴なう変化を比較すると, 正常児群はCA7~8歳段階において, 概念的言語媒介移行者の割合が50%を上回り, CA10歳段階で 100%に達する。これに対して, 精薄児群はMA10~11 歳段階で40%強程度であることが認められる。
以上の結果から, 精薄児における弁別学習の手がかり機制の発達的変化は正常児とよく類似した経過を示すといえるが, 精薄児は正常児に比べMA2~3歳程度遅れることがうかがわれる。

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