教育心理学研究
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幼児における空間的な量を表わす言語に関する発達的研究
森 一夫北川 治出野 務
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1980 年 28 巻 4 号 p. 265-274

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抄録

本研究では, 幼児における空間的な量を表わす言語の発達を, 次の2つの基本的な考え方に基づいて検討することを目的とした。
(1) 空間的な量を表わす言語は, 相対的な比較用語である。しかし, 幼児はこれらの語を, まず, 指示用語として使用し, やがて, 年齢的な発達とともに比較用語として使用できるようになる。したがって, 幼児の空間的な量を表わす語の獲得を論じるときは, 比較用語として使用できることを獲得の基準とする必要がある。
(2) 数ある空間的な量を表わす語のうちで, 「大きい」という語はもっとも基本的な語であり, 幼児は「大きい」という語を高さや長さの比較にも用いる。このように「大きい」という語を使うことと, 彼らのかさの判断には強い関連があると予想される。
以上の2つの考えに基づいて, 3つの実験を行った。得られた主な結果は, 次のとおりである。
1. 空間的な量を表わす8組の語を, 理解語, および表現語で, 比較用語として使用できる幼児の割合を明らかにした。獲得の割合がもっとも高い語は「大きい」「小さい」の基本語である。また, 一般に, 理解語の獲得は表現語の獲得に比べて早い。
2. 比較用語としても空間的な量を表わす語を使用できる幼児でも, 量を表わす語と個物との結合を強化する教示が与えられたときは, 言語の指示作用が優先してしまって, 指示用語として使用する段階へ戻ってしまう傾向が認められる。この傾向は年少児ほど強い。
3. 実際強体積にかかわらず, 年少児ほど垂直次元では「高い」物体, また水平次元では「長い」物体をかさが大きいと判断する傾向が強い。
4. 高さを比較する場合に「高い」という語を使用できずに「大きい」と表現する幼児は, 「高い」と表現できる幼児よりも, 年長児では「高い」物体のかさを大きいと判断する傾向が強い。また同様に, 「長い」という語を使用できずに「大きい」と表現する幼児は, 「長い」と表現できる幼児よりも, 年長児では「長い」物体のかさを大きいと判断する傾向が強い。

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