教育心理学研究
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人格の二面性測定の試み
NEGATIVE語を加えて
桑原 知子
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1986 年 34 巻 1 号 p. 31-38

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抄録

森 (1983) は, 人格の二面性に注目し, それを数量的に測定しうる尺度 (TSPS) を作成した。しかし, TSPSは望ましい意味をもつ語 (P) のみから成りたっており, 望ましさという点からみた時, 人格の片面しか表現し得ず, また, 項目への反応が, 真にその項目にあてはまっているとしているのか, あるいは項目のもつ望ましさに反応しているのかが不明であった。そこで, 本研究においては, Pと意味的には類義語であるが望ましさの程度が異なる語 (N) を加え,(1) N側面は, Pとどのように異なり, どういった特性をもつか, またNを加えることに意義が認められるか,(2) 自己を望ましくみせようとする構えがどのように混入しており, それを明らかにするスコアを設定できるかという諸点について検討を加えた。
まず (1) については, P, N間相関, 反対順位などの点についてP, N間の類似性が認められ, 被験者が, 項目のもつ望ましさ以外の要因によって, 項目への反応を行っている部分が大きいことが示唆された。しかし, 二面性を示すとされた群は, PとNとでその像が少し異なっており, Pは主に情緒安定性を示し, Nにおいては, 社会的内向性への傾きが認められた。また, 同じように自己肯定的であると考えられる, S+ (P) 大群とS+ (N) 小群は異なったパーソナリティー像を示し, 両者を区別していく必要性が示された。以上のように, N項目は, P項目に対してその測定領域を広げたのみならず, Pとはかなり異なった側面のパーソナリティーを抽出しうることが示され, N項目作成の意義がたしかめられたといえる。 (2) 次に, S (P-N) のスコア, 及びS+ (N) は, MMPIのL, K尺度と相関があり, このスコアが, “自己を望ましくみせようとする構え” を抽出する可能性が示された。しかし, S (P-N) が大きいこと及びS+ (N) が小さいことは, 適応あるいは低不安と関連がある可能性も強く, 数値が極端な場合のみ, この “構え” の影響を考えうるとされた。最後に, N項目を加えたTSPS-IIについて, パーソナリティーテスト, 二面性テスト, 自己受容度測定の三側面をもつこと, 及び, いずれの側面においてもN項目の設定が意義をもったことが示された。

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© 日本教育心理学会
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