本研究の2つの実験では5歳児40名と大人44名を被験者として相互排他性の棄却に及ぼす行為目的情報と事物の行為目的適性度の効果を検討した。未知物1事例と既知物3事例が提示される新奇語命名事物選択課題を用いて, 新奇語命名のみの事物選択と, 行為目的情報を付加しての事物選択を求めた。その際, 既知物の1つが行為目的情報の行為目的にとっての適正度 (目的適性度) が高い事物を提示した群と低い事物が提示される群を設定し比較した。実験1の5歳児は新奇語命名のみでは未知物を選択しやすかったが, 行為目的情報を付加した選択では, 未知物の選択が減少し, 行為目的に対応する既知物が選択されやすい傾向が見られた。その傾向は目的適性度が低い既知物よりも高い既知物を提示された群の方が著しかった。実験2の大人は, 概ね5歳児と同様の結果を示したが, 行為目的情報を付加した事物選択では目的適性度が低い既知物が提示された群で, 5歳児よりもその既知物を選択しやすい傾向が見られた。これらの結果から, 例えば同意語獲得時などに不可欠な相互排他性の棄却には行為目的情報, 既知物の行為目的適性度, 被験者の年齢という3つの要因が関わっていることが示唆された。さらにこれらの要因から, 語彙獲得過程においては行為目的情報に代表される文脈との関連から既知物の行為目的適性度といった事物に対する認識が重要な役割を果たしていることが指摘された。